第56話 前途多難過ぎる恋 13

 そこまで言われたらフィニアも受け取るしかない気がして、「ありがとうございます」とイヤリングを受け取る。


「そ、それとよかったら握手してください、フィニア様」


「え? あ、はい……」


 言われたとおりフィニアが彼と握手すると、あの仏頂面で怖かった店主が嬉しそうに笑顔になる。その様子を見て、フィニアはちょっと胸が熱くなるのを感じた。



 今度また買い物に来ますと店主に約束し、フィニアは店主と別れてレジィと共に大通りを歩く。


「王女様、なんか嬉しそうですね」


 レジィがご機嫌な様子のフィニアを不思議に思ってそう声をかけると、フィニアは「うん」と頷いてこう話し始めた。


「なんか国民の人に『フィニア様』って言ってもらえて、嬉しくて。ほら、私ってずっと城に篭ってたから直接国民の人たちと触れ合ったの久しぶりだったし。よかったよ、フィニアの方はもう皆に忘れられてるのかと思ったから。すごく嬉しいんだ、覚えててもらえて」


 ずっと国民の前に姿を現さなかった自分だが、今日あの店主の男性と会話をして、『フィニア』は国民に忘れられてなかったのだと知った。それがとても嬉しい。


「そうだ、レジィもあの時助けてくれてありがとう。あの男の人と仲良くなれたのも、あの時レジィが注意してくれたおかげだよ」


 フィニアが思い出したようにそう笑顔で言うと、レジィは一瞬驚いたように目を丸くした後、照れたように顔を赤くする。


「そんな、僕は何も……僕、よくトラブルは起こしますけど、そうやって感謝されるようなことあまりしたことないからちょっと照れます」


 レジィのその言葉に、フィニアはなんだか彼が自分に似てるなと改めて思う。自分も周りに迷惑はたくさんかけてきたから、たまに感謝されたり褒められると凄く嬉しくて、そしてなんだか照れてしまう。


「わかるわかる、たまーにありがとうって言われると照れるよねー」


「はいー、慣れないことだからでしょうか」


 互いに普段は駄目人間同士、フィニアとレジィは気が合うのかもしれない。二人は可笑しそうに笑いながら、イシュタルたちと合流するために歩いた。




◇◆◇




「あの馬鹿兄はどうして毎回人に迷惑をかけるのでしょう。そうしないと気がすまないのでしょうか」


 コハクは怒った様子でそんなことを言いながら、フィニアを捜してマリサナと共に広場の周辺を歩いていた。


「フィニア様は街になれてないので、迷子になるのは仕方ないですよ」


「じっとしてれば迷子にはなりませんわ。それもわからない馬鹿なので私は呆れてるんです」


 コハクの厳しい言葉に、フィニアをフォローするマリサナは苦笑いする。しかしこうしてフィニアを一緒に捜している彼女は、なんだかんだで兄を心配しているんだろうと、そうマリサナは思った。


「……マリサナ、どうして笑っているんですか?」


「え!? す、すいません」


 不機嫌そうにコハクが睨んでいるのに気づいて、マリサナは慌てて真面目な表情を作る。どうやらコハクがフィニアを心配してると気づき、自然と笑顔になってしまっていたらしい。

 コハクのこともフィニアのことも同じように好意を持って接しているマリサナとしては、二人が兄妹として仲良くなってほしいと思っている。なによりフィニアが一生懸命コハクに好かれようとして、それで空回りなことしているのが見ていて気の毒になる。


「あの、コハク様……」


「なんですか?」


「今回の事……フィニア様が迷子になってしまったのは私たちの責任でもあります。ですからフィニア様が見つかったとき、あまりフィニア様を責めないであげてください」


「……」


 マリサナの言葉にコハクは何も返事を返さない。マリサナはそれを気にしながらも、人込みを見渡してフィニアの姿を捜した。




◇◆◇

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