第55話 前途多難過ぎる恋 12

 店主の男がレジィを睨みつける。レジィはちょっと怯んだが、でも彼は強気に「ぜったい多くお金取りました!」と男に訴える。フィニアはどうしたらいいのかわからず、ブローチ片手におろおろするばかりだった。


「言いがかりだ、そんなん。俺はちゃんと値段分だけ金貰ったぞ」


「多かったですよ! ブローチは4600プルですよね? あなたさっき6000プルくらい取りましたよ!」


「ふざけんな、いきなり来てお前はなんなんだ。大体こいつがちんたらして金支払わなかったのが悪いんだよ」


 なんか店主が怒って自分のせいにするので、フィニアはよくわからないまま「す、すみません」と謝る。するとレジィは興奮してるらしく、「王女が謝る事ないですよ!」と大声で言った。そして店主はまた訝しげな顔をする。


「おい待て、今王女って言ったか?」


「あ、やば……」


 レジィは自分の大失言に気づき、余計な事に「違います、この方はフィニア王女様じゃないです!」とか言っちゃう。この男もだいぶうっかり野郎だったことを思い出したフィニアは、慌てた様子で「それ言っちゃ駄目だって!」とレジィに言った。


「あぁ、ごめんなさい王女様! 僕うっかり……」


「だから王女って言っちゃ駄目だって! 内緒なんだから!」


 レジィもフィニアも二人してうっかりなので、もはや『こちらのフード被った女の人は実はフィニア王女ですよ、内緒なんですけどね!』と暴露してるような会話を店主の前で堂々と繰り広げる。店主の顔はちょっと青ざめ「おい、冗談だろ」と彼は呟いた。


「こ、こんなちんちくりんなのが王女なわけないだろ」


「ちんちくりんだって?」


 店主の一言に、ちょっとフィニアは怒る。確かに身長は高くないが、知らない人にちんちくりんだなんて馬鹿にされたくはない。そして自分はコハクみたいにしっかりしてないが、でもちゃんとアザレアの血を引く王女だ。

 フィニアは店主に近づき、「大きな声出さないでね」と前置きしてからそっとフードをずらす。そしてアザレア王家の者であるという決定的な証拠を、店主の男性に見せた。それはアザレアの血を引く者の証である、物凄いド派手な桃色の髪の毛と紅い眼。


「!」


「これで王女だって信じてくれた? ……って、ホントはばらしちゃいけないんだけどね」


 フィニアが証拠に顔見せすると、「まさかコハク様じゃなく、フィニア様?」と男は震える声で言う。フィニアはまたすぐ顔を隠しながら、「最近全く顔見せてなかった長女の方です」と答えた。そして男は突然態度を急変させ、青い顔色で必死に頭を下げる。


「す、すいません! まさか王女様だとは知らず、自分……本当にすいません! お金は返しますので、どうか店潰さないでください!」


 店主の態度の変わりようにびっくりしつつ、フィニアは「いや、潰さないよ」と苦笑しながら答える。


「それにお金は支払うよ。だってこのブローチ、商品だろ? お金払わないともらえないものでしょ?」


「いえ、しかし……」


 今度は店主がおろおろし始める。フィニアは困ったようにレジィに視線を向け、「どうしよう」と聞いた。


「まずアレですよ、王女。お金多く取られた分、ちゃんと返してもらわないと」


 レジィのその言葉に、フィニアは「うん、わかった」と頷く。そして店主に向き直り、「本当にお金多く取ったの?」と聞いた。すると店主は深々と頭を下げて「申し訳ありません」と言い、数枚の硬貨をフィニアに返金する。本当に多く取られてたのかとフィニアは驚き、そして店主にこう言った。


「おれ……じゃないや、私もなれない買い物で支払いに手間取ってしまい、あなたを待たせて苛々させてしまったのでそれは申し訳ないと思います。でもこういうことはもうしないでください。今回は私だったからよかったけど、もし本当にアザレアの外からのお客さんがあなたのお店で買い物し、今回みたいなことが起きたらその人はアザレアの国にがっがりしてしまうと思うんです」


 フィニアの言葉に店主はうな垂れながらもう一度「申し訳ない」と言う。反省しているようなので、フィニアはそれ以上厳しい事は言わなかった。それよりレジィが自分を見つけてくれたことに安心し、彼に「もしかしなくても捜しに来てくれたんだよね?」と聞く。レジィは頷いた。


「ロットーさんも王子も、みんな心配してましたよ。でもホント、王女様見つかってよかったです」


「そっか……あ、ごめんなさい。ちょっとロットー捜してたらいつの間にか道に迷ってて……」


「そうですか。ロットーさんもきっとそういう理由でいなくなったんだろうって言ってました。とりあえず王女、他の皆さんと合流しましょう」


 フィニアはレジィと一緒に他の皆と合流しに向かうことにする。すると店主の男が「あ、王女様」と、フィニアを呼び止めた。


「なに?」


「あの、これをお詫びに……」


 そう言って店主がフィニアに差し出したのは、先ほど買ったブローチとデザインのよく似たイヤリング。普通に値段の高そうな品だったのでフィニアが断ろうとすると、「王女様に失礼なことをしてしまったので」と言ってまた頭を下げた。


「べ、別に気にしてないので……」


「いや、受け取って下さい。でないとこっちの気が治まりません」

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