第54話 前途多難過ぎる恋 11
◆◇◆
その頃迷子のフィニアは、人込みに流されてどんどんと甘味処から離れていき、心細い様子で「ロットーどこー」とか言っていた。
「なんか俺、どんどん間違った方向に進んでるような……っていうかここはどこだろう」
間違った方向に進んでいるのはわかっていても、フィニアは人の波に逆らえずどんどん流されていく。誰かに道を聞きたくても、引きこもりだったフィニアに知らない人に声をかける勇気は無い。どうしようと、フィニアは途方にくれていた。
とにかくフィニアもこのまま人の流れに乗って進むのはよくないと思い、大通りを歩いていた彼女は道の端へ寄ってそこで一先ず立ち止まる事にした。
知らぬ商店の壁に背を預けて、フィニアは疲労の溜息を吐く。
「はぁ……歩きっぱなしで疲れた」
ずっと流されるままに歩いていたフィニアは、しかしそのおかげで胃の中のケーキが消化されてちょっと体調は良くなる。しかし迷子の現状に、彼女は精神的に弱っていた。
『勝手にどっか行かないでください』と、今頃ロットーは怒ってるだろう。それ以上に妹はブチ切れてると思う。イシュタルも勝手に迷子になった自分に呆れてるかもしれない。そして間違いなく今、自分は皆に迷惑かけてるんだろう。皆自分を捜してくれてると思うし。
「……うわ、ホント俺って駄目な奴だ。なんかまたすごい泣きたい気分になってきた……」
色々と考えると、どうにも気分がネガティブな方へいってしまう。今にも泣きそう、というかむしろもう半泣き状態になったフィニアだが、ここで泣いても仕方ない。フィニアは涙とついでに出た鼻水を拭い、とりあえずあのお店へ戻る努力をすることにした。
「えっと……俺はたしかあっちから来たんだから、あっちに戻ればいいんだよな……」
ずっと城にいたので街のことは詳しくないフィニアは、正直どっちから来たとかどこも同じように人が溢れている場所にしか見えないのでよくわからない。なのでほとんど勘で戻るべき方向を決め、彼女は正解とは大間違いな方向へと突き進んだ。
フィニアが人込みの中頑張って間違った方向に突き進んでいると、彼女は何となく見覚えのある物を見つけて足を止める。それはコハクがネックレスを買った露店だった。
人恋しくて心細かったフィニアは、ふらりとその露店へ向かう。相変わらず仏頂面の店主がちらっとフィニアの姿を見るが、顔を隠した彼女はとくに気にも留められない様子で、店主の男性は店の前でうろうろというかおろおろするフィニアを放置した。
店の前まで来たフィニアは、店主の男性がなんとなく怖い雰囲気で、店の前でどうしようと悩んでいた。店主の男性に先ほどのケーキのお店はどこにあるか聞こうと思ったのだが、店主の顔や雰囲気が怖くて話しかけられない。フィニアがうろうろおろおろしてると、店主の方からフィニアに声をかけた。
「何か用か?」
「はひぃ!」
威圧感たっぷりに声をかけられ、フィニアはビビりまくる。涙目のフィニアは逃げたくなったが、ビビりすぎて足も動かない。仕方なく彼女は店の商品を見るふりをした。
商品を見ていると、先ほどコハクが買うのを諦めたブローチが目に入る。
(……そういえばコハク、ブローチも欲しがってたよな)
これを買ってコハクにあげたらコハクは喜ぶだろうか……そんな考えが、ふとフィニアの脳裏をよぎった。妹に喜ばれたら、それできっと少しは自分のこと好きになってもらえるかもしれない。
やがてフィニアはコハクに喜んでもらおうと、ブローチを購入することにした。
「あ、あぁ、あの……」
「なんだ?」
不機嫌にも聞こえる店主の声に、フィニアはまたビビりまくる。しかし勇気を出して、彼女は「これください」と言ってブローチを指差した。
「……4600プルだ」
値段を言われ、フィニアは慌ててお金を出そうとする。しかし生まれてから一度も買い物などしたことないフィニア、お金を払って品物を貰うくらいの知識はあるが、知識しかないので初体験の買い物に戸惑う。
「よんせん……えっと……」
金や銀、銅の硬貨が入った袋を取り出すが、そこから彼女は店主の言ったとおりの金額を用意するのに手間取る。フィニアが硬貨に刻まれた数字を一枚一枚確認してお金を用意する姿を見て、店主はイライラした様子で彼女にこう話しかけた。
「なんだお前、もしかして異国のもんか?」
「え?」
フィニアがお金の支払いに手間取る姿を見て、店主はフィニアがアザレアの外から来た人間なのではと勘違いする。アザレア国通貨であるプルに慣れていないと、そう思って店主は勘違いしたのだろう。
「あ、あの……」
「チッ……その金入った袋、貸しな」
店主はそう言うと、怯えるフィニアに手を伸ばす。『お金とられちゃう!』と怯えまくるフィニアだが、店主の迫力に負けてあっさり袋を手渡した。
「あああぁぁぁ~……」
情けない声を出して怯えるフィニアを尻目に、店主の男は袋から何枚か銀貨と銅貨を取り出すと、「まいどあり」とまたひどく仏頂面で言って袋をフィニアに返す。どうやら店主はブローチの値段分のお金を勝手に貰ったらしい。よくわからないけどブローチが手に入ったので、フィニアはうきうきしながらブローチを手に取った 。
「これでコハクにプレゼントできるぞー」
「ああぁ、王女様! だめですよー!」
「うわぁ!」
突然背後から声をかけられ、フィニアはひどく驚く。フィニアに声をかけたのは、フィニアを捜していたレジィだ。偶然ここでフィニアを見つけ、そして何してるのかとフィニアの様子を窺っていたらしい。
店主は「おうじょ?」と怪訝な顔をし、レジィはそんな店主に「僕、今見てましたよ!」と強い口調で話しかけた。
「おじさん、今ちょっと多くお金取ってきましたよね! そういうのはいけないことですよ!」
「……なに言ってんだ」
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