第51話 前途多難過ぎる恋 8

「え?」


 いつの間にかフィニアはボーっとしていたらしい。気づいたらイシュタルがこちらを見て、心配そうに声をかけてきていた。


「少し休もうか」


「ううん、大丈夫です! 私、元気です!」


「そう……?」


「はい!」


 フィニアは笑顔で元気をアピールする。心配してくれるなんてやっぱりこの人は優しい人だなと、単純の塊のフィニアはそれだけでちょっと元気になった。


 またしばらく歩くと、コハクが「あっ」と言って足を止める。メリネヒが「どうしたんですかぁ、コハク様」と声をかけると、コハクは「いえ、ちょっと可愛いなって思って……」と言って小さな露店の商品を指差した。


「あぁ、アクセサリーですね! 確かにこれはかわいいですね~」


 メリネヒがずれた眼鏡を直しながら、笑顔で露店を覗き込む。その店は様々なアクセサリーを無節操に商品として扱っている店らしく、ちょっと商品に統一感は無いがどれも女の子だったら可愛いと感じる品物が取り揃えられていた。


「へぇ、色々とあるね」


「王子に似合いそうな腕輪もありますよ~」


 メリネヒが店主の前で普通に『王子』とか言うので、イシュタルは慌てて彼女に「その呼び方は駄目だよ」と注意する。そして直ぐに店主の反応を伺ったが、幸い店主らしき中年の男性は気づかなかったか聞いてなかったようで仏頂面でコハクたちを見ていた。


「はぁう、そうですね。えぇと、じゃあイシュさんって呼びます」


「あぁ、それでお願い」


 イシュタルたちの会話を聞いて、フィニアもちょっと不安になったのか「ねぇロットー、俺のこともフィニアとか王女って呼んでたらまずいんじゃないの?」と小声でロットーに聞く。するとロットーは残酷な笑顔で「大丈夫です、王女はオーラが無いから気づかれませんって」と言ってフィニアを絶望させた。


「くっ、事実だから何も言い返せない……」


「認めちゃう王女可愛いですね。でもホントお馬鹿さん」


「くそ、今に王女らしい王女になって言い返せるようになってやる」


「あはは、頑張ってください」


 フィニアとロットーがいつもどおり残念な会話で漫才している間に、コハクは何やら自分的に気に入ったアクセサリーを数点手にとって悩み始める。


「コハク様、それが気に入ったのですか?」


 マリサナが難しい顔をしているコハクに小さく声をかけると、コハクは「はい」とアクセサリーを見ながら頷く。コハクが気に入ったと言うアクセサリーは赤い石が飾られた花の形のブローチ、それと同じく赤い色の透明な石のネックレス。両方とも女の子が好きそうな可愛いデザインに仕上げられているアクセサリーだった。 


「どちらも可愛いデザインですね」


「えぇ、そうなんです……」


 コハクはアクセサリーがよほど気に入ったらしく、どちらも欲しそうな顔をしている。しかしどちらもそれなりの値段の品で、いくら一国の王女といってもオリヴァードから貰ったお小遣いは微々たるものな為に二つは買えないので彼女は悩んでいるようだった。

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