第49話 前途多難過ぎる恋 6
アザレア城下の街はいつでも賑わいを見せる。今日も人が多く行き交い、彼らはそれぞれに笑顔だったり不機嫌な顔だったりと様々な様子を見せた。
アザレアは灰色の煉瓦造りの建物が多い。街には飲食店や日用品の店の他に魔術関係の店が多く立ち並び、そこがいかにも魔術国のアザレアらしいとイシュタルは思った。ウィスタリアの城下の街も賑やかさなどが似たような感じだが、しかし街中にローブ服を着た魔術師が多く歩いていたり、怪しげな魔術道具を売る露店などは ウィスタリアではなかなか見ない光景だ。街に来たイシュタルは、まず始めにあまり自分には馴染みの無い魔術道具を売る露店が気になった。
「さすが魔術の国だね。魔術道具を売るお店がいっぱいある」
「アザレアでは魔術が一般的ですから。五歳くらいの子供が魔術を覚えたりするんですよ」
イシュタルが感想を言うと、すかさずコハクが笑顔で彼女に解説をする。ついでにフィニアをさりげなく突き飛ばして、コハクはイシュタルの隣に陣取った。
「うわっ!」
コハクに突き飛ばされたフィニアは、「?」な顔でマリサナに受け止められる。マリサナが「フィニア様、大丈夫ですか?」と聞くが、フィニアは今何か嫌な予感で頭がいっぱいで返事が出来なかった。
「……あれ、コハク」
コハクはイシュタルにべったりで、兄の自分も見たこと無いような楽しそうな笑顔でイシュタルに話しをしている。
「ありゃ、もしかしなくてもコハクちゃん、王子様のこと好きになっちゃったんじゃないですか?」
「なんだとっ!」
後ろでロットーがぼそっと呟く言葉に、フィニアは青い顔色となる。それはつまり、妹が恋のライバルということなのか。
「そんな、だってイシュは……アレじゃないか。だ、駄目だってそれは」
「あれ、とは?」
「あー、アレですもんねー王子は」
マリサナが側にいるのでイシュタルの秘密を言う事が出来なかったフィニアだが、イシュタルは実は女性だ。コハクは知らないだろうが、自分は彼女の魅力的すぎる胸を見ている。そしてそれを思い出して、フィニアはまた勝手に顔を赤くした。
「フィニア様、顔赤いですよ?」
「うわわ、なんでもないです! 別に裸とか想像してないって!」
「?」
フィニアは「とにかくこれはまずいよ、色々」と言って、コハクたちを見る。コハクは実に楽しそうにイシュタルとお話していた。
このままだとコハクがいつか真実を知って失恋という流れになるだろう。それは妹を愛する兄として、可哀相で見たくない展開だ。だが、だからと言って自分が何をすればいいのか、フィニアは直ぐには思いつかなかった。
「このままじゃ絶対コハク最後には悲しむよ……でも、真実言ったら言ったでやっぱりコハク悲しむかも……それどころかイシュも困るよな……」
コハクもイシュタルもフィニアにとって大好きな人だ。このまま二人が悲しむ展開にだけはしたくない。ついでに自分はイシュタルとお付き合いしたい。あわよくばラブラブして人生初のデートとかしたい。まぁ今はそれどころじゃないが。
「ど、どうしようロットー」
やっぱり最後はロットーに泣きつくフィニア。ロットーは小さく溜息を吐くと、「とりあえず今は様子見ですね」とフィニアに言った。
「えぇ、そんなのでいいのか?」
「コハクちゃんがホントに王子に惚れちゃったのか見極めしてから悩みましょう、王女。もしかしたらただ王子があまりにも自分のお兄さんと違ってかっこよくて有能で強いから、それで憧れてるだけかもしれないし」
ロットーの意見はなるほど納得と同時に、駄目兄フィニアにすごいダメージを与える。しかも自分との比較対象が女性のイシュタルってのもへこむ要素だった。
「うぅ……まぁいいや、じゃあ今日は様子見でいこう。マリサナも協力してくれよ」
フィニアが半泣きの顔で言うと、マリサナはまだ事態がよくわからないながらも「はい、出来るだけ協力致します」と返事する。その時メリネヒが「王女様、王子たち先行っちゃいましたよ~」とフィニアたちに声をかけた。
「あぁ、ホントだ!」
フィニアが見ると、イシュタルはコハクに引っ張られて街の大通りに向かっている。フィニアたちは慌てて後を追った。
◇◆◇
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