第45話 前途多難過ぎる恋 2
メイド長に自室の前まで連れてかれたフィニアは、そこでやっとメイド長に解放される。フィニアは不満そうな顔で、「王女、もう少しお部屋で大人しくしていてくださいね」と言うメイド長を見た。
「……俺、無実なのに」
「それはさっきあなたが勝手に弁解をしましたので、私もそれを聞いて理解しました。王女、私はまだ朝早いのでお部屋にいてくださいと言っているんです。ロットーの件で反省して部屋にいろと言っているんじゃありません」
メイド長はそう言うと、ついでにフィニアに王女がそんな薄着で出歩くなやらそもそも寝巻きで出歩くなやら言葉遣いに気をつけろやらを注意する。フィニアはひどく疲れたようにうな垂れつつ、「はーい」と返事をした。
「……っていうかさ、俺が男のときは別に寝巻きでうろつこうが丁寧な言葉遣いしなかろうが、誰も何も文句言わなかったのに……」
フィニアがおもわずそんなことを口にすると、メイド長は少し驚いた顔をしたあと、「それは、王女は男性でしたし……」と答える。
「それ、理由になってなくない?」
「……王様たちはフィニア王女をせめて城の中では自由にさせてあげようと、常々そうおっしゃっていました。ですから私たちも王女の勝手な振る舞いを咎めることはしなかったんですよ」
メイド長のその説明を聞き、フィニアは「じゃあ今はどうして叱るようになったんだ?」と続けて疑問を問う。メイド長は小さく溜息を吐いた後、「今は王女が女性だからですかね」と答えた。
「王族の女性として恥かしくない振る舞いをしていただきたいのです。その姿でしたら、また昔のように公式行事などで国民の皆様の前に出ることも出来ますから。きっとこれからはそういう機会が多くなるでしょう。その時の為に、王女には王族として恥かしくない振る舞いを身につけてもらおうというですね……」
「……」
メイド長の説明に、フィニアは納得がいかなかった。彼女の説明はつまり、やっぱり女性の自分は必要とされるけど昔の自分はアザレアの王家としては必要ない存在だと遠まわしに言われているような気がしたからだ。勿論メイド長はそんなつもりで言ったわけではないだろう。フィニアもそれをわかってはいたが、でもどうしてもそう思ってしまう自分がいた。
「……王女? どうしたのですか?」
ちょっと暗い顔で俯いていたフィニアを心配し、メイド長はそう声をかける。するとフィニアはちょっと顔を上げ、「やっぱり男の俺はいらない子だったんだね」と低い声で言ってメイド長を慌てさせた。
「お、王女!いえ、私は決してそういうつもりで今のお話しをしたわけでは……っ!」
あの怖いメイド長が珍しく申し訳なさそうに慌てるので、フィニアも直ぐに悪い気がして「冗談だよ」と返事する。メイド長はちょっと安心したように息を吐いた後、微笑んでフィニアにこう言った。
「王女がどういうふうになろうと、王女は王女です。私たちも皆それはちゃんと理解しています」
「……ん、ありがと」
本当はまだちょっと落ち込んだ気持ちの晴れないフィニアだったが、メイド長も気を使ってくれてるのに暗い顔をしているのはよくないと思い、彼女に笑顔を返す。そしてフィニアが大人しく部屋に戻ろうとすると、メイド長が「あぁ王女、ちょっと待ってください」とフィニアを呼び止めた。
「なに?」
「ちょっとそのままで……」
「?」
メイド長の要求を怪訝に思いながらも、フィニアは言うとおりにする。するとメイド長はフィニアの背後に回り、「リボンが曲がっていましたので」と言ってフィニアの頭に飾られた黒いリボンに手を伸ばした。
「綺麗なリボンですね。生地が柔らかく光沢があって美しい」
「でしょでしょ!」
リボンとは勿論昨日イシュタルから貰ったリボンだ。フィニアは朝からルンルン気分で、自分の長い髪を頭のてっぺんで一括りにし、そこに彼女からもらったリボンの一つを飾ってみたのだ。我ながら上手くリボンつけられたと思っていたフィニアだったのだが、先ほどロットーと暴れていたらリボンが曲がってしまったらしい。
「ねぇ、直った?」
「はい、これで大丈夫です。とてもよくお似合いですよ」
メイド長がそう返事すると、単純なフィニアは先ほどまでの嫌な気持ちなどすっかり忘れて笑顔になる。
「これ、昨日王子から貰ったんだ」
「まぁ。それはよかったですね、王女」
「うん! あ、ねぇねぇ、お返しって何をすればいいと思う?」
御礼のことを思い出し、フィニアはメイド長にも意見を聞いてみることにする。一応イシュタルはお礼はいらないと言っていたが、けれどもやはり気持ち的に御礼をしておきたいのだ。
「そうですね、何かアザレアの特産品でもお返ししたらいいんじゃないでしょうか?」
「特産?何かあるっけ?」
「海で取れる宝石を使った装飾品はどうですか?真珠というのですが、あれは大変美しく、人気も高いものですし。それを使った男性用のアクセサリーもいくつかございますよ」
「あ、なんかそれいいね!」
メイド長の話を聞き、フィニアは『それだ!』と閃く。
「すごい参考になった、ありがと!」
「それはよかったです。それでは私はこれで」
メイド長はそう言うと、一礼してフィニアに背を向け去っていく。廊下に残されたフィニアはちょっと考えた後、結局暇になるので部屋には戻らず城の庭を散歩することにした。
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