第44話 前途多難過ぎる恋 1
「それでだよロットー、やっぱり王子は綺麗な女の人だったんだよ!」
「それはさっき聞きましたよ、王女……ふあぁ~」
朝早くからロットーの部屋に押しかけたフィニアは、熟睡していた彼を無理矢理起こして昨日のイシュタルとの話を彼にも聞かせる。そして最初こそイシュタルが実は女性だと聞いて驚いていたロットーだったが、その話も一時間近く繰り返されるとさすがに眠気が勝ってどうでもよくなる。
「王女、俺まだ眠いんです。つか今何時だと思ってるんですか。まだ六時ちょっと過ぎですよ? ほら、二度寝したいんで部屋出てってください」
「んなっ!」
若干不機嫌そうな顔で、ロットーは欠伸を噛み殺しながらフィニアを部屋から追い出そうとする。すると邪険に扱われたことにショックを受けたフィニアは、ロットーのベッドに乗っかって彼に馬乗りになった。そして彼女の暴走が始まる。
「酷いロットー! 俺の話真面目に聞いてくれないなんて!」
「ちょっ、王女! 俺あなたの話一時間は真面目に聞いたじゃないですか! ってかくるし……首絞めんな、てめ……」
興奮したフィニアは無意識にロットーの首を絞めて、彼に抗議する。半泣きで首絞めながら「ロットーの馬鹿!」とかフィニアは言うが、ロットーからしてみれば馬鹿野郎と言いたいのは彼の方だ。
なんで一時間同じような話を繰り返し聞かされたあげくに、逆切れされて殺されかけなきゃいけないのか。
「アホお、うじょ、はなせ……まじしぬ……っ!」
「アホって言ったな! アホって言う方がアホなんだよー!」
まるで子供の喧嘩のように二人がドタバタ騒いでいると、早起きなあの怖いメイド長が「騒がしい、何事ですか!」と言いながらロットーの部屋のドアを開ける。そして飛び込んできた光景に、彼女は蒼白な顔色となった。
「な、ななななんてことしてるんですかあなたたちは……っ!」
「え?」
半泣きでロットーの首絞め中だったフィニアは、彼から手を離してメイド長を見る。メイド長は「なんてはしたない!」と、怒りの表情でフィニアたちを見ていた。
「は、はしたない?」
フィニアは薄い寝巻き姿でロットーの上に馬乗り状態で、ロットーはフィニアに抵抗した為に服がちょっとはだけた格好だ。フィニアとロットーの子供の喧嘩のような攻防は、傍からは朝っぱらから男女がベッドの上できゃっきゃうふふしているようにしか見えない。むしろフィニアが特殊なプレイでロットーを襲ってるようにしか見えず、メイド長はフィニアを思わず痴女扱いした。
「一国の王女がそんなはしたないことを……王たちが知ったらショックで倒れますよ、王女!」
「ちょっと待ってよ! 俺何もしてないよ!」
やらしいことは確かになにもしてないフィニアだが、安眠妨害されたあげくに逆切れで首絞められたロットーはフィニアの『何もしてない』という言い分が許せない。復讐に燃えたロットーは、突然背中を丸めて泣く真似をした。
「そうなんです……王女、嫌がる俺を無理矢理……ひどい、ひどすぎる」
「まぁ、なんてことでしょう……っ!」
「ちょっと待てロットー、なに気持ち悪いこと言ってんだ! 誤解だって!」
ロットーのアホ発言にメイド長とフィニアはそれぞれ違う意味で顔を青くする。
「うぅっ、もう俺お婿にいけないです……」
「だーかーらー、俺ロットーに何もしてないって! これじゃ俺変態じゃん!」
ロットーのアホ発言でメイド長から変態痴女認定されそうなフィニアは、また泣きそうな顔で「俺無実なんだって!」と訴える。泣き真似をやめたロットーは、「いいからもう出てってください、王女」と冷めた様子でフィニアをさっさと追い出そうとした。
「ちょうどいいやメイド長さん、そのうるさい王女回収してってください。俺あと一時間は寝るつもりなんで」
「ロットーお前なぁ……っ!」
しかしフィニアが言い返そうとした時、彼女の襟首をメイド長が掴んでロットーの要望どおりフィニアを回収していく。
「ほら王女、行きますよ」
「あぁ、待ってよ! 俺まだロットーに言う事あるんだって! そ、相談がまだ……」
「王女、こんなところ王子にでも見られたら大変ですから。早くお部屋に戻ってくださいね」
「だ、だから俺別にロットーに変な事してないんだって! それすごい誤解だよ!」
段々と遠ざかるフィニアの叫び声とメイド長の声を聞きながら、やっと解放されたと安堵の息を吐いて、ロットーはまたベッドに潜り込んだ。
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