第42話 彼と彼女の出会いのお話 42
気がつけばフィニアは、泣きつかれて寝てしまっていたらしい。目覚めたのはイシュタル用の客室で、そこのベッドの上だった。
「……あれ」
ゆっくり身を起こすと、側で「あぁ、王女起きましたか~」という声が聞こえる。声の主は眼鏡に金色の巻き毛、たしかメリネヒという名の女性だったとフィニアは寝ぼけた頭で思い出した。
「メリネヒ、さん……?」
「メリネヒって呼んで下さい、王女様」
メリネヒはにっこり笑ってそう言う。フィニアは少し緊張しながら、「じゃあメリネヒと呼ばせていただきます」と返した。
ところで部屋の窓から見える外はもうすっかり暗い。そして部屋にはイシュタルの姿が見えない。色々とまだ状況把握出来ていないフィニアは、側にいたメリネヒに話を聞こうと思った。
「あの、王子は……」
「あ、王子ですかぁ~? ちょっと他の騎士たちの様子を見に行っていますよ」
「そ、そですか……」
メリネヒは「私は自分がいない間王女をみててくださいと、そう王子に頼まれたんです~」と言う。フィニアは少し笑って、「ご迷惑おかけしてすいません」とメリネヒに頭を下げた。
「わわっ、王女が頭を下げないでください~!」
「え? あ、でもなんか迷惑かけたみたいだし……そういう時は謝らないといけないってオリヴァードが言ってたから」
フィニアが困ったような顔でそう言うと、メリネヒは何故か可笑しそうに笑って「王女は王子に似てますね」と言う。それにどう反応したらいいのか、フィニアはやはり困ったように首を傾げた。
「そうそう王女様、王子の秘密知っちゃったんですよね~」
「秘密……」
メリネヒの笑顔に、フィニアはイシュタルのとんでもない秘密を思い出す。そして彼女の胸やらなんやらをついでに思い出し、年頃の男の子らしい反応で顔を真っ赤にさせた。
「王女、顔真っ赤ですよ? 熱ですかぁ?」
「あ、いや、違うんだけど……べ、べつに変なこと考えてるわけじゃなくて……」
「んん?」
余計な事を意味不明に口走るのが、フィニアがロットーに馬鹿馬鹿言われる原因でもある。今回もばっちり「胸とか見てないです! ほんと!」とか余計な事をフィニアは口走り、メリネヒはまた可笑しそうに笑った。
「胸って……別に女性同士なんだし見ても大丈夫ですよぅ」
「あ、そ、そですよね! そうなんですけど……でも……」
フィニアが勝手に一人で困っていると、イシュタルが部屋に戻ってくる。イシュタルは目を覚ましたフィニアを見て笑顔になり、「起きたんだね」と声をかけた。
「あ、王子……」
「そうそう、イシュタルって呼んでくれてかまわないよ。家族は私をイシュって呼ぶけど、そう呼んでくれてもかまわないし」
イシュタルのその言葉に、フィニアはちょっと困ったような顔で曖昧に頷く。女性を呼び捨てで呼ぶなんて事、この元・男は妹くらいにしかしたことなかったのだ。そのためちょっと照れたように、「でも……」と口ごもる。フィニアのこの様子に勘違いしたイシュタルは、「歳も近いし、気軽にそう呼んでほしいんだ」と言った。
「年上だとかそういうのは気にしないで」
「う……え、と、あの……」
しばらく迷った後、フィニアは意を決したように「じゃ、じゃあイシュって呼ばせてもらいます」と彼女に返事を返す。途端にイシュタルは嬉しそうに笑って、その笑顔にフィニアはまたわかりやすく顔を真っ赤にした。
「あ、それじゃ私のこともフィニアでいいです!」
勢いでそうフィニアが言うと、イシュタルは「ならそう呼ばせてもらうね」と頷く。なんだかお互い名前で呼び合うなんて、フィニアにしたらそれだけですごく親密な関係のように思えてドキドキした。
「ところでフィニア、これからのことなんだけど」
「はひっ!」
早速名前で呼ばれて、フィニアは思わず過剰反応して変な返事をしてしまう。イシュタルは少し笑い、そして彼女にこう話しかけた。
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