第41話 彼と彼女の出会いのお話 41
もしかしなくても両親はこのことを知っていて、自分と王子を見合いさせたんじゃないかと、今頃フィニアはそれに気がつく。こんなことなら魔人に『女の子にして!』なんて頼まなきゃよかったと、フィニアは心底そう思った。
(あ、でもまだ俺、男に戻れるチャンスは残ってるんだよな)
まだ自分には、願いをもう一つだけ叶えてくれる魔人がついている。しかし男に戻っても、イシュタルが男の自分を受け入れてくれるかどうかわからない。それどころか自分は彼女の胸を見てるし、『実は一時的に女になって自分の胸を見たド変態』と妹みたいなこと言われて彼女に徹底的に嫌われてしまうかもしれない。そう考えると、男に戻るという選択肢も怖くて安易に選択できない。自分はやっぱり彼女が好きなのだ。これは間違いなく初恋だと、フィニアは思う。それでやっぱり微妙に夢見がちな元・男の子フィニアとしては、初恋は大切にしたい。今は手違いで相手に『お友達』としか見られてないけど、もしかしたらの可能性もまだあるわけだし。っていうか、あるとフィニアは信じたかった。
「王女、あの……」
「!?」
考え込んでいたフィニアに、イシュタルは恐る恐るといった感じで声をかける。フィニアは相当思いつめた顔をしていたらしく、イシュタルにそれを心配された。
「やはり王女、私が女だったと言う事に悲しんでいるのでは?」
「そ、そんなことは……」
むしろイシュタルが女の子だったので喜びたいフィニアだが、しかし一体どうすれば彼女とラブラブになれるのかわからず悩んでしまう。その悩みが表情に表れ、それを見たイシュタルはやはりフィニアが自分を結婚相手だと思い今日会ったのに、実は女性で結婚できない事にショックを受けているのではないかと勘違いをした。
「王女、すいません。やはり今回の見合いはこちらから断るべきだった……会わずに断れば王女を傷つけるのではないかとも思ったが、しかし会っても私は王女を傷つけてしまいました。私は酷い人間ですね……」
「え、ちが……そんなことないです! そうじゃなくて、あの……」
イシュタルが悲しそうな顔をするので、フィニアもなんだか胸が締め付けられるように痛くなる。彼女が悲しい顔をするのが辛くて、フィニアは自分は大丈夫だと伝えようとした。しかし上手く説明出来ない。どういえば彼女は安心してくれるのかわからず、やがてフィニアは……
「お、王女!?」
「ひっく……っ」
フィニアの視界がぐにゃりと歪む。涙だ。情けないくらいにぽろぽろと涙を零しながら、フィニアは「王子は、何もわるくない……です……」と搾り出すような声で言った。
「あの、こちらこそ……す、ません……ぜんぜん、おうじわるくない、のに……こ、こまらせてるの、こっち、なのに……」
自分だって王子を騙してた。いや、騙している。責められるべきは自分の方なのに、でもそれを言う勇気がなくてフィニアは自分の情けなさを恥じて「ごめんなさい」と頭を下げた。
「ど、どうして王女が謝るんですか?」
「だ、だって……だってぇ……っ……」
フィニアが突然泣くので、イシュタルもおろおろとし始める。もはやいろいろ収拾がつかなくなり、どっちもどうしていいのかよくわからない。
「王女、すいません……大丈夫ですか?」
「だいじょ、ぶ……ですぅ……でも、あの……っ」
フィニアは泣きながら、「嫌いにならないでください」とイシュタルに頭を下げて言う。こんなふうに情けなく泣く男なんて絶対嫌われたと、フィニアはそう思うとますます涙が出た。
「王女……」
「おねがい、ですっ……ヒック……き、きらいにならないで……ごめ、なさい……」
こんな泣いて懇願する自分も情けないと、そう思いながらフィニアはイシュタルに『自分を嫌わないで』と訴える。
好きな女性の前でみっともなく泣くような男なんて、きっと嫌われる。彼女に嫌われたくない。
どうすれば彼女は自分を嫌いにならないでくれる? こんな情けない自分を、どうすれば。
「おねがい……」
ロットーやコハクだったら、もっと上手い言葉で彼女の心を引き止めることが出来るんだろう。でもそんなこと、自分は出来ない。何を言えばいいのかもよくわからない。謝ってお願いする事しか思いつかない。こんなんだから自分はロットーに馬鹿って言われるんだ。
泣きながらお願いするなんて、こんなことしか思いつかない自分が、フィニアは嫌になった。
「……王女、私は王女を嫌いになんてなりません。こんな優しくて真っ直ぐな心の人を、嫌いになる理由が無い」
イシュタルは泣きじゃくるフィニアをそっと抱きしめる。突然強く抱きしめられ、フィニアは涙を零したまま驚いたように目を見開いた。
「ごめんなさい王女、なにか誤解させてしまったね。私は王女のこと、好きですよ」
イシュタルはフィニアを慰めるように、優しい声でそう囁く。フィニアはどうしていいのかわからず、されるがままにイシュタルに抱きしめられたまま泣き続けた。
◇◆◇
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