第39話 彼と彼女の出会いのお話 39

「好きなもの?」


 不思議そうな顔をするイシュタルに、フィニアは慌てて「あ、さっきリボン頂いたんで何かお返ししたいと思ったんです!」と正直に答える。イシュタルは笑顔になり、「いいよ、そんな気を使わないで」と返した。


「で、でもなにか頂いたらお礼しないと……」


「その気持ちだけでとても嬉しい。王女は優しいんだね、ありがとう」


「え、いや、その……えっと……」


 微笑みながら礼を言われ、フィニアはまた倒れそうなくらいに照れまくる。しかし突然イシュタルの表情が変わり、フィニアはちょっと戸惑った。


「……やはり、そんな優しい王女を騙す事は私には出来ないよ」


「え……?」


 突然思いつめたような顔になったイシュタルに、フィニアは不安げな様子で「ど、どうしたんですか?」と聞く。イシュタルは少し考えるような間のあと、おもむろに立ち上がってフィニアにこう静かな声で語りかけた。


「王女、私は王女にすごく大事なことを隠しているんです。今の私は王女を騙していると言ってもいい」


「え? え?」


 なんだか話が全く理解出来ない。突然真剣な顔で深刻そうな話を始めるイシュタルに、フィニアは静かに混乱した。


「王女、すいません。どうか落ち着いて、その……説明するよりも実際見てもらったほうが信じてもらえるでしょう。ですから見ていてください、王女」


「は、はい……あのぅ……」


 フィニアがぽかんとしながらも頷くと、イシュタルはおもむろに上着を脱ぎ始める。最初は「?」状態で見ていたフィニアだったが、イシュタルが一番上に着ていた上着のボタンを全部外し終えると、突然顔を青くさせてうろたえ始めた。


「あ、ちょ、ま、まってください王子! あの、そういうのはまだ早いんじゃ……わ、わたし経験無いし……」


 大きな勘違いをして激しく動揺するフィニアを見て、イシュタルは困った様子で「あ、そうではないんです王女」とフィニアの誤解を解こうとする。それでも「あわあわ」と慌てるフィニアに、イシュタルは思い切って上着を脱ぎ、『自分の秘密』を伝えようとした。


「すいません、あの……実は私はこのとおり!」


「ふえあぁあぁぁぁっ!」


 半泣き顔のフィニアが次の瞬間見たものは、さらしをぐるぐるに巻いたイシュタルの胸。色の白い肌が露出し、フィニアは一気に顔を赤くする。何故ならフィニアは見てしまったのだ、イシュタルの持つ豊満な胸を。そりゃもう見事なまでの大きさの豊かな乳房が、さらしで無理矢理押し込まれて窮屈そうに潰されている。


「あ、う、うそ……胸……え? あ、えぇ?」


「……実は私はこのとおり、本当は女なんだ」


 少し顔を赤くさせながら自分の秘密を告白するイシュタルに、フィニアはどうしていいのかわからず最大級に混乱する。女性の胸をこんな間近で見たこと無かった元・男のフィニアは、そういうものに免疫なんて全く無かったのだ。心臓バクバクで、フィニアの顔は茹蛸状態だった。

 とりあえずそんなにまじまじと見ちゃいけないと思い、フィニアは正直魅力的なイシュタルの胸元から目を逸らす。激しく脈打つ心臓が口から出るんじゃないかとマジで思うほどに、フィニアはまだ混乱していた。


「お、王子……その、ほんとに女性……」


「はい……すいません、驚かせてしまい」


 イシュタルはまたきっちり服を着ながら、申し訳なさそうにフィニアに謝る。一方でフィニアはイシュタルが女性と知って、今まで自分が彼女に対して感じていたどきどきの意味がわかったと納得していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る