第38話 彼と彼女の出会いのお話 38

 目を丸くして驚くフィニアに、ロットーは苦笑しながら「王子って、それだけ魅力ある方なんですかね」と言う。


「確かに美人ですよね。中性的な雰囲気ありますし」


「うん、ホントに美人だよ。たとえばコハクは可愛いけどさ、あの王子様はまさに美人って感じなんだよ」


「なにさり気にシスコン発言してるんですか。あ、そうそう王女」


 ロットーはサイドテーブルを指差して、「これ、王子から貰ったんですよね。大事にしてくださいね」と言う。見るとイシュタルから貰ったリボンが置いてあった。


「あぁ! そうだ、王子から俺プレゼント貰っちゃったんだよ! どうしようロットー、俺何もそういうの用意してない!」


 人から物を貰ったら必ずお返ししなきゃいけないと、フィニアはそう考えているためにひどく慌てた様子を見せる。彼女はロットーに「何あげたらいいかな?」と聞いた。


「王子が喜びそうなものお返ししとけばいいじゃないですか」


「何返せば喜ぶかわからないから困ってるんだよ。参考に聞くけど、ロットーだったら何貰ったら喜ぶ?」


「俺ですか? お金と愛ですかね」


「お前に聞いた俺が馬鹿でした」


 フィニアは自力でプレゼントを考える事にする。が、やっぱり何をあげたらいいのか思いつかない。やがてフィニアが出した結論は。


「……そうか、こういうときは王子に直接聞けばいいんだ」


「わぁ、王女にしては名案思いつきましたね」


 ロットーが棒読みで褒めると、フィニアは早速イシュタルの元に何をお返ししたらいいのか聞きに行こうとする。


「ねぇロットー、王子どこの部屋にいるの?」


「直ぐそこの、廊下の突き当たりの客間ですけど……王女、まさかその格好で王子のとこ行く気ですか? オリヴァードさんに怒られますよ、はしたないとかなんとかって」


 ロットーの指摘に、フィニアは自分が地獄の責め苦を味わうドレスを脱いでいて、寝巻きのネグリジェに羽織物を羽織った格好だということに気がつく。


「……まさかとは思うけどさ、この格好……」


「勿論俺は脱がしてないですよ。やだな王女、怖い顔して。着替えさせたのはメイド長ですって」


 それを聞き、フィニアは安心したようにホッと息を吐く。そして「着替えるの面倒だし、オリヴァードには内緒にしといて」と言って、やっぱりそのままの格好でイシュタルの元へ向かった。




◇◆◇




 イシュタルがいるという部屋のドアを控えめにノックし、フィニアは中に声をかけてみる。


「王子、私です。フィニアです」


 フィニアの呼びかけに、イシュタルは少し驚いた顔で直ぐに部屋のドアを開け出てくる。少々ラフな部屋着に着替えていたイシュタルは、「もう体は大丈夫なのかい?」とひどく心配そうにフィニアに聞いた。


「へ?」


「疲労で倒れたんじゃないかってロットーが言っていたから心配したんだ。王女はやはり体が丈夫じゃないみたいだね。無理はしないで」


 イシュタルは本気で心配そうにそう声をかける。本当に優しい人なんだなとフィニアが感激してると、イシュタルは「中に入って。病み上がりに立ちっぱなしというのは良くないし」と言ってフィニアを中に入るよう促した。


「あ、はい。……あれ、メリネヒさんは?」


「メリネヒは別の部屋を借りて休ませてもらってるよ。他の騎士たちも」


「あ、そうですか」


「うん。あぁ、どうぞそこに腰掛けてください王女」


 二人きりという状況にまた少し緊張するフィニアだが、でもイシュタルの優しさを何度も知るうちに段々と緊張が解けてきたらしく、最初よりは自然な態度で接する事が出来るようになる。


「あの、実は聞きたいことがあって……」


 そうフィニアが話を切り出すと、イシュタルも突然真剣な顔になって「私も王女に伝えたい事があるんだ」と言った。


「伝えたい事?」


「いい機会だし、ここで話しておくことにするよ。でもその前に、王女の聞きたいことって?」


 イシュタルの言う『伝えたい事』がとても気になったフィニアだが、とりあえずこちらの質問を先にしておく事にする。


「えぇと、王子の好きなものはなにかなーっと……それを聞きたいと思いまして」

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