第37話 彼と彼女の出会いのお話 37

 イシュタルのその言葉を『女らしくない』と歪曲して理解したフィニアは、ひどく焦った様子で「そそそそうですか?!」とイシュタルに聞く。イシュタルはにっこり笑って、「王女みたいな方、私凄く好きですよ」と言った。そのイシュタルのなんか凄く可愛い笑顔に、フィニアは物凄いときめきを感じて顔を真っ赤にする。


(あわわわ、だ、男性なのになんでこんなに可愛く笑うんだこの人……うぅ、すごいドキドキしてしまう……)


「王女? どうしたんですか? 顔が真っ赤だ……」


 フィニアの様子を心配したイシュタルは少し屈んでフィニアの顔を覗きこむ。そしてフィニアの額に手を当て、「まさか風邪?」とひどく不安げに呟いた。


「熱でもあるんじゃあ……」


「あ、え、いえ、あ、の……っ!」


 間近にイシュタルの美貌が迫り、フィニアは動悸がして意識が飛びそうになる。やっぱりこの王子様綺麗過ぎと思いながら、そこでフィニアの意識は途切れた。


「王女!?」




◇◆◇




 緊張と色んな限界で突然ぶっ倒れたフィニアは、イシュタルを始めとした周囲が慌てる中、ただ一人冷静なロットーによって自室に運び込まれる。一時間後彼女が部屋のベッドで目を覚ますと、側に立っていたロットーが呆れた顔で「おはようございます」と言った。


「……ロットー? ここ、どこ?」


「お馬鹿な王女は自分の部屋も忘れたんですか?」


「あ、部屋か……」


 フィニアは体を起こし、ロットーは彼女に「水飲みます?」と聞く。フィニアは「いい」と首を横に振り、そして自分がなんでここで寝てたのか考えた。


「何してたんだっけ……」


 独り言のようにぽつりとそう呟くと、ロットーが側の椅子に腰掛けながら「お見合い」と、やはりこちらも独り言のように言う。彼の言葉で全てを一気に思い出したフィニアは、顔をどんどん青くさせて叫んだ。


「そうだ! イシュタル王子は!?」


 王子の美人っぷりにドキドキし過ぎてぶっ倒れたことを思い出し、フィニアは自分の情けなさに泣きたい気持ちになる。王子が今どこにいるのかも気になったので、情けない気持ちでうな垂れながら「王子はどこに?」とロットーに聞いた。


「王子は別の部屋で休んでますよ。王女が突然倒れるから凄い心配してましたよー」


「そっか……あとで謝らないと」


「っていうか王女なんでいきなりぶっ倒れたんですか? 緊張? それともコルセットきつ過ぎて酸欠になったとか?」


「ううん。……ねぇロットー、王子ってホントに男の人なのかな?」


 フィニアは大きく溜息を吐きながら、「王子って美人過ぎるよ」と呟く。ロットーはちょっと首を傾げながら、「王子なんですから、男なんじゃないんですか?」とフィニアの疑問に答えた。


「だよなぁ……でもさ、あの人笑ったり話しかけられたりすると、俺すっごいドキドキしちゃうんだよね。女の子にドキドキするのと同じ感じにさ。なにこれ、まさか恋……?」


「あー、そうですよ、それ。王女が王子に惚れちゃったってことじゃないですか?」


 ロットーのその言葉に、今度はフィニアが首を傾げる。


「でも俺は元は男だよ? 男の人にときめき感じた事ないし」


「今は女でしょ」


「そうだけど、そう直ぐに心まで女になるものかな? 今も別にロットーにときめきなんて感じないよ?」


「そうですか。いや、俺にときめき感じられても、俺も困りますけど」


 フィニアの話を聞いているうちに、ロットーも「そういえば」と何かを思い出す。


「俺も王子と初めて会った時、ちょっと王子にはどきっとさせられましたね。あ、もちろん俺そっちの気は無いですよ。でもなんかドキッとしたんですよねー……」


「え!?」

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