第34話 彼と彼女の出会いのお話 34
「姉さんや母様は確かに強い。私も何度か手合わせをさせてもらったが、二人には一度も勝った事が無いんだ」
「え、王子が! それは驚きですね」
素直に驚くマリサナに、イシュタルは「戦う女性は強いよ」と笑う。マリサナははにかんだ笑みを返した。
そしてマリサナとイシュタルが会話してる時にも、この二人はこそこそ何かを話し合う。
「ねぇロットー、そういえばロットーとマリサナってどっちが強いの?」
「マリサナ」
「即答? 情けないなー」
「いや、だって俺女性に本気で剣向けられませんもん。どうしても遠慮しちゃって。マリサナ美人ですし」
「相手が男だったら負けないのか?」
「そうですね、男だったら血祭りですね。遠慮なくバッサバッサ切りますよー」
「こわっ……じゃあ俺だったら?」
「……迷いますね、その質問は。王女って男? 女?」
「いや、迷うなよ。性別以前に俺はお前の護衛対象だし、剣向けようとすんなよ」
「あぁ、そうでした。うっかり忘れそうになってましたよー」
「……普通忘れるか?」
また地獄耳でこっそり二人のやりとりを聞いていたコハクは、もしかして兄も駄目人間だけど護衛もわりと駄目なのではないかと思い始める。しかしどうでもいいのでほっとく事にした。
「それにしてもフィニア王女とコハク王女、さすが姉妹ですぅ~。そっくりですね~。ぎゅーってしたくなるほど可愛らしいです~」
メリネヒが感激したようにそう言うと、フィニアは妹と似てると言われて素直に嬉しいらしく、デレデレな笑顔で「そうですか?」と返す。一方で兄を粗大ゴミの如く嫌う鬼畜な妹は、表面上は笑顔を見せながらも内心ではデレデレ喜ぶ兄に烈火の如く怒り狂っていた。そしてコハクは般若の表情を隠した笑顔でこう言う。
「いえいえ、私なんかよりも姉さまの方が素敵ですの。姉さまはまるで一日部屋に篭ってるかのような肌の白さで、性格も私とは違いほとんど人と接触してない生活を送っているかのように大人しいんです。私はお母様に叱られるほどお喋りなんですけど、お姉さまは初対面の人に対しては初なくらい動揺して喋れなくなりますし。魔術の腕も不思議なことにアザレア王家に生まれることは許されない男性並の腕前ですし、私お姉さまのような女性になりたいと常々思っています。絶対になれませんけど。本当に私と似ても似つかないお姉さまは、私の永遠の憧れですわ」
どう聞いても悪意満載のコハクの言葉に、フィニアは本気で泣きそうな顔になる。マリサナが控えめに「コハク様」と注意したが、コハクは知らん顔でそっぽを向いた。
「そうか、フィニア王女はやはり普段は大人しい方なんだね。会ってみると噂とは違うイメージで元気な方だなと思ったけども、もしかして王女は無理をしているのかな?」
イシュタルが心配そうな顔でフィニアに声をかける。するとフィニアは「ううん、いえ、ぜ、全然!」と、妹のさっきの言葉もあながち間違ってないなと言いたくなるほどきょどった様子で返事をした。
「ん~……フィニア王女はたしかにちょっと人見知りしますけど、でも相手に慣れると積極的にお話ししますよ。純粋な方なんです、フィニア王女は」
フィニアが哀れになったロットーがそうフォローすると、イシュタルは「そうなんだね」と納得したように笑う。フィニアも「は、はい」と返事し、そして彼女は小声でロットーに感謝を述べた。
「ロットー、お前やっぱりいい人だったんだ。ありがとう、俺の味方はお前しかいないよ~……」
「そうそう、全くその通りなんですから王女はもっと俺に感謝するべきなんですよ。平伏して『ロットー様』っていうくらいに感謝しないと」
さりげなく台詞がドSなロットーだが、フィニアはアホなので「了解です、ロットー様」と返事する。これじゃどっちが上下関係上なのかわからなかった。
「姫様、それにイシュタル様、他の皆様もお茶が冷めてしまいます。どうぞお召し上がりになってください」
フィニアたちの会話が一旦区切りついたのを見計らい、庭のテーブルにお茶とケーキを用意し終えた年配の召使が声をかける。フィニアは「わかりました」と返事し、イシュタルたちに席に着くよう勧めた。
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