第33話 彼と彼女の出会いのお話 33

◇◆◇




 城の中の案内が大体終わると、フィニアはイシュタルたちを予定通り城の庭に案内する。そこでお茶を飲みながら、イシュタルに妹のコハクを紹介することになっていた。



「初めまして、イシュタル王子。私はアザレアの第二王女コハク・シュエンナ・アザレアですわ」


 フィニアによく似た顔立ちの、少し幼さの残る少女がイシュタルへと頭を下げて挨拶をする。

 兄、もとい姉同様の長い桃色の髪を、彼女はサイドで高く二つに結ってリボンを飾っている。大きく丸い赤の目は愛らしい印象を与え、フリルの多いドレスを着た彼女はまさに『お姫様』な人物だった。


「初めまして、コハク王女。私はイシュタル・ヴィヴィア・ウィスタリア、ウィスタリアの王子です」


「えぇ、存じておりますわ。騎士としてお強くお優しく、容姿端麗で美しい非の打ち所が無い方だという王子のお噂は、この小さな島国にも伝わっておりますもの。敵を恐れぬ勇敢な王子の武勇伝もいくつか聞いておりますわ。ですから私、王子にお会いするのをとても楽しみにしておりました」


「そんな……噂は大げさだよ」


「いいえ、そんなことありません。私、今日こうして王子を拝見して人目で王子が噂に違わぬお方だとわかりました。王子はとてもお美しい顔立ちをしておりますし、それに雰囲気で優しい方だとわかります」


「驚いたな、コハク王女は口が上手い。でもね王女、私なんかよりも王女たちの方がよっぽど美しく愛らしいお顔立ちをしているよ」


「ふふっ、王子こそお上手ですわ。でもありがとうございます」


 コハクとイシュタルの会話に、フィニアはみっともないほどに口をあんぐり開けて放心していた。

 自分の妹なのに自分の妹ととは思えないほどコハクがしっかり挨拶をしているのを見て、フィニアは妹を尊敬すると同時に自分の駄目さにものすごいショックを受ける。なんで彼女は初対面のイシュタルとこんなすらすら会話が出来るのか、フィニアは真面目に不思議だった。


「ちょ、ロットーなにコハクすごくない? 天才?」


「コハクちゃん歳のわりにしっかりしてますからねー。王女も見習ったらどうです?」


「む、無理だよ! 俺にはあんなスラスラ言葉出せる機能付いてないもん!」


「あはは~、ですよね~」


 フィニアとロットーの駄目な会話をさりげなく聞いていたコハクは、イシュタルには笑顔を見せながら内心では兄を徹底的に軽蔑して『駄目だこいつ……』とか思っていた。


「王子、こちらは私の護衛をしてくださっているマリサナです」


 コハクは自分の後ろに控えていたマリサナを、イシュタルに紹介する。マリサナはイシュタルに深く頭を下げた。


「あぁ、よろしく」


「マリサナは女性ですけども、とても剣の扱いに長けているのですよ」


 コハクが自慢げにそうイシュタルに紹介すると、マリサナは照れたように頬を赤らめて「いえ、そんな……」と小さく呟く。


「私なんかよりも同じ女性ならばイシュタル様のお姉さまのロザリア様や、お母様である女王陛下の方がよっぽどお強いでしょう。イシュタル様も剣術に長けた騎士と噂に伺っております。王子も含め、皆様私の憧れです」


 マリサナは生まれも育ちもアザレアだが、父親が他国で長く傭兵をやっていた為に、幼い頃から父に剣術を習って育った。知識を深める魔術よりも体を動かす剣術に惹かれた彼女は、アザレアでは珍しく剣を武器にし戦う戦士として自分を強くしたのだ。そんな戦う女性の彼女は多くの女性が剣を持ち、さらに女王自らも騎士として戦いの時は戦場に向かうウィスタリアに尊敬と憧れの念を抱いていた。

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