第31話 彼と彼女の出会いのお話 31
二人の仲を親密にさせる為の見合いなので、オリヴァードは二人の仲を邪魔しないようさっさと退場することにする。アザレアは基本放任主義なのだ。一応護衛のロットーをフィニアの元に残して、他の召使たちもそそくさと部屋を出た。
部屋にはフィニアとイシュタル、そしてロットーとメリネヒの四人だけが残される。人が少なくなると、それはそれで心細いのかフィニアはまた泣きそうになっていた。
「あぁ、えっと……あの……」
何を話せばいいのか迷った様子で、フィニアはおろおろし始める。イシュタルが心配そうに「どうしたんですか?」と声をかけるので、長く引きこもりっぱなしで対人スキルが極端に低いフィニアはパニック寸前になった。
「あああ、どうもしてないんですけど……あのぅ……」
フィニアのテンパリっぷりに、ロットーは呆れる。こんな調子で十日も大丈夫なのだろうか。しかしフィニアがどうせこうなる事はオリヴァードたち皆予測済みだ。そしてこの為にロットーは彼女の側にいると言っても過言ではない。
「王女、王子に城の案内をするんじゃありませんでしたっけ?」
ロットーのその言葉に、数分前の自分の言葉すら忘れていたフィニアはハッとして「そうだった!」と言う。ロットーは思わず笑顔で『そうだったじゃねーよ』と突っ込みそうになった。
「すいません、イシュタル王子。ちょっと緊張してしまいまして……」
フィニアはとりあえずの目的を思い出して落ち着く。するとイシュタルは控えめに声を出して笑った。
「お、王子?」
「ごめんなさい、ちょっとおかしくて……王女は面白い方ですね」
そういった後にイシュタルは「あ、すいません」と困ったように笑う。そしてイシュタルは「フィニア王女のような姫には私、初めてお会いになりましたよ」と言った。
「え、えと……」
フィニアが返事に困っていると、イシュタルも「変なことを言ってしまい申し訳ありません」と言う。フィニアはやはりどう返事したらいいのかわからず、とりあえず笑っておいた。
「そういえばフィニア王女、彼女のことをまだ紹介していませんでした」
イシュタルはそういうと、自分の後ろに控えていたメリネヒに視線を向ける。
「彼女はメリネヒ・クロネール、私の付き人です」
イシュタルに紹介され、メリネヒは「王女、初めまして~」と挨拶をする。おもいっきり頭を下げたせいで、彼女の丸いレンズの眼鏡がまた盛大にずれた。
「ああぁ、眼鏡がずれちゃいましたぁ~……」
いつもどおりおっちょこちょいな彼女を見て、イシュタルはちょっと苦笑いする。フィニアは『ドジっ娘眼鏡っ娘可愛いな』とか思いながら、メリネヒに「どうも、よろしくおねがいします」とデレデレ笑顔で挨拶した。
「彼女とは数年来の付き合いで、色々相談に乗ってもらっていたりしています」
「そうなのですか。私もロットーにはよく相談に乗ってもらっています。相談だけじゃなく、色々助けてもらってたり……」
フィニアのその返事を聞き、ロットーはうんうんと何度も首を縦に振る。本当に冗談じゃなくフィニアを散々助けてきたロットーは、その苦労の対価として今度王にもうちょっとだけ給料上げてもらえないか相談しようと考えた。
◇◆◇
「この廊下の先、突き当たりに地下書庫への階段があるんです」
フィニアの説明を聞きながら、イシュタルたちは城の中を見て回る。フィニアも時間が経って幾分緊張が和らいだのか、ロットーが驚くほど順調に城の案内を行っていた。
「地下書庫にはたくさんのグリモワールがあって、えー……一応この国の大事なものらしいです」
「グリモワール、魔術の本か……そういえばアザレアの初代王はとても高名な魔術師だったね」
「ソルフェリノ王ですよ、王子~」
マリサナの言葉にフィニアは「そうそう」と笑顔で頷く。そしてロットーに頭をこっそり小突かれた。
「王女、そのフランクな口調よくないです」
「うるさいな、思わず出ちゃっただけじゃないか」
ロットーと小声で囁きあったあと、フィニアはイシュタルに「書庫の中をご案内します」と言う。するとイシュタルは少し驚いたように、「いいのですか?」と返した。
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