第29話 彼と彼女の出会いのお話 29

◇◆◇




「うぅ……何でロットーに抱きかかえられて運ばれないといけないんだ……とっても屈辱。あ、なんかこのマント花の匂いする……」


 めそめそとイシュタルのマントに包まって泣くフィニアに、彼女を部屋に運ぶロットーは「しかたないでしょ」と素っ気無く返事する。


「裸、あと裸足で外歩く一国の王女なんて前代未聞ですからね。王女がアホな脱走しなきゃこんなことにはならなかったんですよ。全く、裸も驚きですけど三階から飛び降りるなんて妙な度胸はあるんだから」


 呆れきったように溜息吐くロットーに、フィニアは「あれ、どうして俺が脱走したってしってるの?」と聞く。ロットーはしれっとした顔で、「大体わかりますよー」と返事した。


「さて王女、俺はあなたをしかるべきところに運ぶだけですからね。その後のことは自分で何とかしてくださいよ」


「え?」


 何か妙な事を言うロットーに、フィニアは「どゆこと?」と首を傾げる。ロットーはにやりと意地悪く笑い、フィニアに前を見るよう促した。そしてフィニアがロットーの進行方向へ視線を向けると、途端に彼女の顔色は悪くなっていく。

 ロットーとフィニアの前に立ちふさがる鬼の影。それはあの怖いメイド長の女性だった。


「お・う・じょ~!」


「ひいぃぃぃ~」


 世にも恐ろしいオーラを背中に纏い、メイド長の女性はフィニアに詰め寄る。フィニアは情けない顔で涙目だった。


「窓から裸で逃げ出すなんてどこまであなたはバカなんですか! さぁ王女、今度は窓に鉄格子ついている部屋を用意しましたのでそちらで準備を行いますよ!」


 メイド長はそう言うと、ロットーからフィニアを荷物のように受け取り連行していく。


「鉄格子ってなんだよそれ! 牢屋?! 王女を牢屋にぶち込むってどういうこと?!」


「いいから来てください! もう、本当に時間がないのですから! 今度暴れたら縄で縛り上げますよ!」


「うわぁぁ~ん、ロットー助けてくれよ~!」


 フィニアの泣き叫ぶ声がどんどんと遠ざかっていく。ロットーは連れられて行くフィニアに、爽やかな笑顔で「頑張ってくださいね~」と言って手を振った。




◇◆◇




「ようこそ参られた、イシュタル王子」


 側近のメリネヒを連れて、イシュタルは謁見の間にてアザレア王と王妃に対面する。ちなみにイシュタルが連れてきた他の騎士たちは別所に待機している。

 王の挨拶にイシュタルも頭を下げ、「初めまして」と挨拶をした。メリネヒも同じく頭を下げる。


「船旅に馬車での移動、色々とお疲れでしょう? お見合いといってもここにしばらく滞在するご予定なのですし、お二人とも少しお休みになられてはどうでしょう?」


 王妃が心配そうにそう聞くと、イシュタルは「いえ、大丈夫です。お気遣い感謝いたします」と笑う。王と王妃はイシュタルの好青年っぷりに満足したように、二人して微笑んだ。


「それにしても噂どおりのお美しい王子だ」


「本当に」


「ですよねぇ~」


「いえ……って、メリネヒ」


 さりげなく王たちに混じってメリネヒが惚れ惚れしたようにコメントするので、イシュタルは小声で彼女に注意をする。メリネヒは眼鏡の位置を直しながら、「すいません、つい~……」と謝った。

 ところで王たちはイシュタルの秘密を知っているのだが、フィニアが一人で悩んだ結果女になってしまった件についてを彼女に説明すべきかちょっと迷っていた。


「ところでそう、フィニアのことなのだが……」


 王がそう話を切り出すと、イシュタルは「あぁ、王女でしたら先ほどちょっとお会いいたしました」と笑顔で答える。王と王妃はそろってぎょっとした顔となった。


「も、もうフィニアにお会いに?」


「ど、どこでですかな?」


「それは、ここに来る途中……」


「ゴホンっ!」


 イシュタルが先ほどのことを説明すべきか迷いながら返事をしようとすると、側に控えていたオリヴァードがわざとらしく咳払いをして話を遮る。そして王が「どうした、オリヴァード」と声をかけると、老人は静かな声でこう言った。


「王、そろそろ王女も用意が出来る頃だと思いますぞ。今回イシュタル王子がここに来たのは我々に会いに来たのではなく、王女に会いに来て下さったことをお忘れなく」


「おぉ、そうだな」


 うまくフィニアのうっかり話をスルーさせることに成功したオリヴァードは、イシュタルに「ではわたくしがフィニア王女の元にご案内いたしますぞ」と言って、イシュタルたちをフィニアが待っているであろう部屋に案内することにした。




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