第27話 彼と彼女の出会いのお話 27
国のほぼ中央、小高い丘の上に立つアザレア城では、フィニアがお見合いの為に召使たちと共に色々準備をしていた。
朝から薔薇の匂いが凄まじい風呂に入れられ、ドレス着れなくなると困るからと朝食もろくに食べさせてもらえず、その後召使たちに押さえつけられながら全身美容マッサージを施され。
「いやだー、こんな地獄のような責め苦の数々には耐えられないー! お見合いやっぱり中止にしようよー!」
朝から休みなく続くお見合いの為の準備にこりごりし、美容マッサージの為に無理矢理裸同然にされたフィニアはバスタオル一枚の姿で本気で泣いていた。この後はドレスを着たり化粧したりと、まだまだフィニアにとって楽しくない予定が控えているのである。
「王女、我慢してください。我々も王子にとても美しく綺麗な王女の姿を見てもらいたいのです」
あの怖いメイド長の女性が、呆れた溜息を吐きながらフィニアに言う。しかしフィニアは本当にもう嫌らしく、ぶんぶんと首を横に振って悲しそうに呟いた。
「いいよ俺元々がそんな綺麗じゃないんだし、化粧しても変わんないよ……ドレスも着たくない……お腹空いたよー……」
「王女、”俺”じゃありません。自分のことは?」
「……私、もう嫌です。うわーん、ロットーに会いたいー……多分私の味方は彼だけですわ……」
「えぇ、ロットーにもうすぐ会えますよ、王女。彼はもうすぐ王子とともにこの城にやってきますからね。ですから王女、時間がありません。さっさと次はドレスを……」
メイド長がドレスとコルセットを手に持って迫る。フィニアは恐怖に震え上がり、なにをトチ狂ったか顔面蒼白で部屋の窓を開けた。
「王女!?」
ここは城の三階の部屋。窓を開けて王女が何をしでかすつもりかと、召使たちは驚く。まさか……と誰もが思った時、追い詰められたフィニアは泣き叫びながらその”まさか”の行動に出た。
「もう嫌なんだって! こんなの耐えられない!」
フィニアはバスタオル一枚の姿で、あろうことか城の三階の窓からジャンプする。色々追い詰められた彼女は、とんでもないことに裸同然のままでの脱走を選択したのだ。それにここは三階、下に落ちたら怪我は確実だろうし、下手したら命を落しかねない。それでも窓から飛び降りるのを選択するほどに、フィニアはお見合いの 準備に嫌気が差していたのだろう。
「王女っ!」
メイド長が叫び、数人の召使たちが悲鳴をあげる。その頃ちょうどフィニアが暴走した部屋の外の裏庭では、イシュタルたちがオリヴァードに案内されながらぞろぞろと城の中へと向かっていた。
「この城は初代アザレア王がデザインに関わったお城でして……」
オリヴァードがそんな説明をイシュタルにしていると、突如頭上から悲鳴と叫び声が聞こえてくる。何事かと皆、足を止めて頭上を見上げた。そして誰もが目に飛び込んできた光景に驚愕する。
「あああぁぁぁぁぁぁっ!」
そんな悲鳴をあげて、ほとんど素っ裸の女が三階から振ってきたのだ。そしてその落ちてきた人物の長い桃色の髪を見て、ロットーは「王女!」と叫んだ。
「な、なんですと!?」
ロットーの叫びを聞いて、オリヴァードは顔を真っ青にする。しかし顔を青くし驚くより先に、落ちてくる王女を何とかしなくてはいけない。騎士たちが呆然とする中、イシュタルは反射的に動いた。イシュタルはマントを翻し、フィニアの落下予測地点へと走る。そしてバスタオル一枚で落下してきた自分の見合い相手を、運良くしっかりと両腕でキャッチした。
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