第26話 彼と彼女の出会いのお話 26

 フィニア王女とウィスタリアのイシュタル王子の見合い話は、当然ながらアザレア国中に知れ渡ることになる。国民たちは皆自国の王女と美しく強い蒼の王子との見合いを、温かく盛大に歓迎した。


 フィニアに見合い話が知らされてから数日経過し、いよいよウィスタリアからイシュタル王子がやってくるということで、アザレアは国をあげて王子を歓迎するムードで盛り上がる。王子のやってくる日の前日は街はどこもお祭り騒ぎで、皆仕事など忘れて踊ったり飲んだりはしゃいだりと、ただ自分たちが騒ぎたいだけなんじゃないかと思うくらいに賑やかに騒いでいた。


 王子がアザレアに到着する日の早朝過ぎ、イシュタル王子と何人かの護衛たちが乗る船が、アザレアの港町レヴァインの港に予定通り到着する。港ではアザレアの兵数人とオリヴァードがイシュタル王子たちを出迎える。フィニアが色々着替えなどで忙しく、その間暇な護衛ロットーもオリヴァードと共に港に来ていた。


「ようこそアザレアへ、イシュタル王子。はるばるお越しくださり感謝致しますぞ」


 船から降り立ったイシュタル王子を、オリヴァードが歓迎の言葉と共に迎える。深い青の王子服を身に纏い、純白のマントを羽織ったイシュタルの登場に、王子を人目見ようと集まった民衆がざわめきだした。


「こちらこそ、ここまで出迎えてくれて感謝するよ。ありがとう」


 イシュタルはオリヴァードに軽く会釈し微笑む。イシュタルのその凛とした中性的な美貌と堂々とした立ち振る舞いに、民衆たちは興奮したように歓声をあげた。その様子を眺めていたロットーは、『何かの宗教かよ』と内心でツッコミながらびっくりしていた。しかし同時に民衆が一瞬で沸き立つほど、この王子のカリスマ性が高いというのは理解できた。何か王子には強い魅力が備わっているように見えるのだ。そりゃもうフィニアに三割くらい分けて貰いたいほどに、イシュタル王子は王族としての魅力に満ちている。


「わたくしはアザレア王の相談係、オリヴァード・エルですぞ。王の命令で、あなた様のお迎えに参りました」


「そうか。私は自己紹介する必要もないかもしれないけれど、イシュタル・ヴィヴィア・ウィスタリアだ。よろしく、オリヴァード殿」


「オリヴァードと呼んで下さい。御覧のとおり兵が少ない国ですので心もとない護衛かとも思いますが、アザレアにいる間の王子の安全は我々も最大限の努力でできる限り保障致します」


「大丈夫だ、私は自分の身は自分で守れるし、それにこんなにも私を歓迎してくれるアザレアに危険があるとは思えない。そんなに気を使ってくれなくてもいい」


「ありがとうございます。……あぁ、一応彼の紹介をしておきましょう」


 オリヴァードは後ろに立つロットーに視線を向け、「彼はロットー、フィニア王女の護衛です」とイシュタルに紹介する。ロットーは一歩前に出て、イシュタルに頭を下げた。


「王子、初めまして。俺はロットー・マーシェンスです。先ほど紹介されたとおり、フィニア王女の護衛を勤めております」


「あぁ、君がフィニア王女の……」


 イシュタルは笑顔でロットーに握手を求める。ロットーは少々戸惑いながらも、イシュタルの手を握った。それにして確かに美人な王子だと、間近でイシュタルを見たロットーは思う。王子の男性的ではない美貌にちょっとどきどきしている自分がいて、ロットーは手を離しながら軽く自己嫌悪に陥った。


「君には城に着くまでに是非、王女のこと色々聞いたいな」


「あー……王女のことですか。わ、わかりました」


 王女の何を話せばいいんだと、ロットーは悩む。ここ数年のひきこもりっぷりなんて話すわけにもいかないし、でもそれ以外で話すこともないし、どうするかとロットーはちょっと考え始めた。


「そうそう、私も紹介しなくてはいけないね。私の騎士団に所属する騎士たちを数名と、それと私の相談役でもあり友人のメリネヒを連れてきた。彼らのこともよろしく頼む」


 銀の甲冑を身に纏った騎士たちが十人ほど、イシュタルの後ろで整列し控えている。一人ロングスカートを穿いた雰囲気の違う眼鏡の女性がメリネヒだろう。彼女はロットーたちに「よろしくお願いします~」と、気の抜ける声で挨拶をした。


「それでは王子、城にご案内致しましょう。馬車を用意してありますので、そちらへ」

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