第24話 彼と彼女の出会いのお話 24

◇◆◇




 男は今、ウィスタリアにいた。出身はこの国ではないが、ウィスタリアを守る騎士として今男はこの国にいる。騎士になり、あまり目立たぬよう、しかし確実に功績を残すよう努力をしてきた。彼には目的があったからだ。なるべくウィスタリアの王家に近い場所で動ける土壌が、彼には必要だった。そして彼の努力のかいあって 、彼がイシュタル王子率いる騎士団ヴァイスリッターに所属することが決まったのは、彼がこの国に来て三年経った頃の事。そして今回彼には王子とともにアザレアへ向かうという任務が与えられた。王子がアザレアの王女と見合いするらしい。彼は王子の護衛として、他数人の騎士と共にアザレアへ向かうことが決まったのだ。好 都合だった。

 城門前に佇み、青と白の落ち着いた色調と壮麗な外観が美しいウィスタリア城を見上げて、男は薄く笑みながら呟く。


「……そろそろいい子ぶるのも疲れたし、な」


 男の纏う銀の甲冑が、柔らかな陽光を反射し鋭く光を放った。




◇◆◇




「はぁ……見合いなんてどうすればいいんだろう」


 自室で頭を抱えながら溜息を吐くのは、イシュタル王子。側では彼女の相談役も勤める付き人のメリネヒが、「溜息吐く王子もかっこいいです~」と惚れ惚れしていた。相談役なのに悩むイシュタルに率先してアドバイスしようとかそういう素振りを見せないのが、おっとりマイペース人間なメリネヒの特徴である。やがて究極に マイペースな友人に、イシュタルから相談話を持ちかけた。


「メリネヒはどう思う? 今回のお見合い話」


「へ? 私ですかぁ?」


 ズレためがねの位置を直しながら、メリネヒはイシュタルの問いに考える。


「私でしたら、王子と結婚出来るなんて素敵な話喜んでお受けいたしますよ~」


 イシュタルが女だと知る彼女だが、わりと本気でそう答える。イシュタルは思わず苦笑いを浮かべ、「私は女性だよ?」と言った。


「でもですね~、王子はとてもかっこいいですから」


「女性同士で結婚なんて出来ないよ」


「そんなことなんですよ~。どこかの国では同性での結婚が可能なところもあるとかないとか~」


「でもウィスタリアでは認められていないよ」


「そーなんですよねぇ……」


 メリネヒは小首を傾げ、「それなのにアザレアの王女と結婚前提にお見合いしろだなんて、女王も不思議なこと言いますねぇ」と呟く。それはイシュタルも疑問だった。


「私は表向きは男性だから、女性と結婚できない事もないってことなのかな」


 しかし自分の戸惑う気持ちを抜きにして考えても、相手王女は女性と結婚なんて嫌だろうとイシュタルは思う。まだ会った事の無い女性だが、無理矢理自分と結婚ということになって彼女を傷つけやしまいかとイシュタルは不安だった。


「どうしよう……本当に困ったな」


「とりあえずフィニア王女に会ってみたらいかがでしょう? 事情をちゃんと説明して、王女と話し合うとか」


「話し合う、か……事情をちゃんと説明するということは、確かにした方がいいね」


 メリネヒの意見に、イシュタルは頷く。結婚するかしないかを決める上で、王女に真実を話すのは大事な事だ。おそらく真実を語ったら間違いなく王女は結婚を断るだろうが、それでも説明はすべきだろう。


「ふぅ……明後日にはアザレアへ向かわなくてはならないのか」


 アザレア国第一王女・フィニア、会ったことはないが噂ではひどく病弱な王女だと聞く。ほとんど外には出ず、城の自室で静養し生活しているとか。


「……王女はどんな子なんだろうね。やはり大人しい子かな? 私より二つ年下らしいけど、お友達にはなりたいな」


「そうですね~。いつもお部屋にいるらしいですから、何か外でのお話とかしたら楽しんでくれるかもしれないですよ~」


「そうか。……うん、ずっと部屋にいるのはとても退屈そうだものね。でも外の話と言っても、外のどんな話しをしたら楽しんでくれるかな? 訓練の話なんてしてもつまらないだろうし……そうだ、何か土産も持っていかないと」


 おそらく結婚は出来ないだろうが、同じ女性として友達にはなりたいとイシュタルは思いながら、メリネヒと共にアザレアへは何をお土産に持っていけばいいかなと考えた。

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