第23話 彼と彼女の出会いのお話 23

◇◆◇




 幼い頃ドレスを着せられていたことがあるフィニアは、その衣装の恐ろしさを思い出して青ざめていた。


「そういやドレスってあの、お腹ギューギューに締め付ける衣装だよね……?」


 母であるカレラ王妃に連れられてフィニアがやって来たのは、フィニアの自室。そこに数人のメイドと針子たちを呼んだ王妃は、青い顔色のフィニアの先ほどの質問に「そうですよ、ドレスはお腹ギューギュー締め付けますよ」と笑顔で答えた。ちなみにロットーは部屋の外で待機している。


「やっぱり……」


「大丈夫ですよフィニア、そのうち慣れますから」


 慣れるもんかとフィニアは言いたかったが、しかし王妃のやけにご機嫌な様子を見て言えなくなった。

 笑顔の母を見て、ついつい気分が落ち込む。


(やっぱり女のほうが母さんも嬉しいのかな……)


 進んで女の子になったフィニアだが、しかしやはり内心はまだ少し複雑で整理しきれていないようだ。昔の自分はやはり誰からも望まれていなかったのかもと思うと、能天気で明るいフィニアと言えども暗い気持ちになってしまう。


「フィニア、どうしたのですか? そんなにドレスの締め付けが嫌なのかしら?」


 フィニアの暗い顔に気づいた王妃が問う。フィニアは「ううん」と首を横に振りかけ、しかし訂正して「そう、嫌だからなるべく苦しくないドレスがいい」と言った。


「わかりました、じゃあなるべくフィニアの意見を組み込んだドレスを用意しましょう」


 王妃はそう言い、そしてふと気づいたようにフィニアに問う。


「そういえばフィニア、下着は?」


「え?」


 王妃のその一言に、フィニアは一瞬固まる。その隙に王妃はフィニアに近づき、問答無用で彼女の穿いていたズボンを脱がそうとした。


「ぎゃああぁぁ母さんなにすんの訴えるよ!」


「どこに訴えると言うんですか」


 ガチャガチャと堂々ベルトを外そうとする王妃に、フィニアは涙目で「止めて!」と叫ぶ。王妃は一旦手を止め、「何を恥かしがっているんですか」とフィニアに首を傾げた。


「恥かしがるって、当たり前だよ! どこの世界に十八になった息子のズボン堂々と下ろそうとする母親がいるのさ!」


「今は娘でしょう?」


「そ、それはそうだけど……でもやっぱりおかしいって! いいよ、下着何穿いてるか言えばいいんでしょ?! 言うから待って!」


 フィニアは半泣きで「いつものでございます、男物ですお母様」と言う。王妃は「まぁ、やっぱり!」と言い、何故か怒ったようにフィニアを見た。


「良いですかフィニア、女性なんですから下着もこれからは女性のものを身につけてくださいね」


「えー……やっぱりそうじゃなきゃ駄目なんだ」


 テンション下がるフィニアを無視して、王妃はメイドの一人に下着を用意するよう言う。


「絹の赤いものを用意してくださいな。レースが多いのがいいですね」


「かしこまりました」


 メイドと王妃の会話に、フィニアはちょっとぎょっとして「赤って派手じゃないかな?」と呟く。王妃はフィニアの訴えは無視して、「ではドレスの準備の続きをしましょう」とフィニアに笑顔を向けた。




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