第21話 彼と彼女の出会いのお話 21
母である王妃がフィニアにタックルで迫り、そして全力で抱きしめる。その母のタックルは昔幼いコハクも散々犠牲になった恐ろしい攻撃で、コハクはフィニアを絞め殺さん勢いで抱きしめる母を見て過去のトラウマで震えた。
「かあ、さ……しんじゃう……」
「勿論お母さん元のフィニアも愛していましたからね~! でもですね、今のフィニアは抱きしめたくなる可愛さなのよ~!」
可愛い女性を抱きしめる癖のある母親は、過去これでコハクを意識不明に追いやったことがある。それでしばらく抱きしめ技を自重していた彼女だったが、自分の息子の変わった姿を見たら押さえ切れなくなったらしい。そして母親が母親なら、父親も「俺も仲間に入れろ!」とか言ってフィニアに抱きついた。
「ぐえぇ!」
二人に抱きしめられて、フィニアはそろそろ本格的に死にそうだった。息が出来ない。あとなんか骨がみしみしとか、すごく嫌な音を立てている。
「フィニア、コハクや母さんに似て可愛いぞ! 勿論お前は自慢の息子だが、でもこれはこれで可愛いから俺の自慢だ!」
フィニアの顔色が洒落にならない不吉な色になってきたので、ロットーとマリサナがそれぞれに王と王妃をフィニアから引き離す。無事救出されたフィニアは、オリヴァードに支えられながら「白いお花畑見えた……」と深呼吸繰り返しながら言った。
「王女、大丈夫ですか? 骨折れちゃってます? それとも内臓出ちゃってたり?」
ロットーが声をかけると、フィニアは「助けるならもう少し早くに助けてもらいたかったよ」と涙目で訴える。ロットーは「いやぁ、親子の感動シーンを邪魔するのは気が引けて」と笑いながら答えた。
「俺が死んじゃったらお前無職になるんだぞ?」
「それは困りますね、この仕事給料いいし。……あ! いや王女のこと大好きだから王女死んじゃったら悲しいです」
「……お前、本音の後にそういうフォロー言われても……」
フィニアがロットーに対して不信感を募らせている一方で、フィニアから引き剥がされた王と王妃は二人でこそこそと何かを囁き合っていた。
「どうするカレラ、フィニアがまさか女になるとは……」
「お見合い、どうしましょうね~」
「だがあれはあれでとても可愛いと俺は思うんだが」
「私もですわ。あれでしたらもうあの子も引きこもらずに済みますし。そうだわ、さっそくあの子に似合うドレスを手配しないと、ふふふ」
「コハクとおそろいのなんてどうだろう。いいなぁ、娘二人。ピクニックとか行きたいなぁ」
「コハクと色違いでおそろいではどうでしょう。いいですね、姉妹というのも。ドレス着せる楽しみが増えましたわ」
お見合い相手であるイシュタル王子の真実を知る王たちだが、フィニアの変化を以外に気に入ってしまったらしく、フィニアが予想外で女の子になってしまったことに対して二人して「まぁいいか」という結論を出す。勿論お見合いが成功して欲しい二人なので、それじゃあ全く良くないはずなのだが。
「見合いはなんとかなるだろう」
「そうですよね。何とかなりますよね~」
フィニアはおバカだが、両親はわりと能天気でアホだった。妹のコハクだけしっかり者なのが謎なくらい、揃って思考のぶっ飛んでいる親子である。
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