第20話 彼と彼女の出会いのお話 20

 翌朝、女の子になったフィニアは珍しく正装して王たちの元を訪れた。


「おはよ、父さん母さん」


 正装と言っても、男性だった時のフィニア用に用意された朱色の王子服だ。フィニアの立場上この服を着て人前に出ることは無かったが、それでも一応王族としての服がフィニアにも用意されていた。

 ちょっとサイズが合わなくてぶかぶかの王子服に身を包んだフィニアは、目を真ん丸くして自分を見ている王と王妃、それにオリヴァードや妹のコハク、マリサナを見返す。やっぱりこういう反応するよなと、彼女の後ろに控えていたロットーは王たちを眺めて思った。


「……フィニア、か?」


「うん」


 驚愕している王の問いに、フィニアは冷静に頷く。王妃が小さく「まぁ……」と声を上げたのが聞こえた。

 フィニアはとりあえず妹が色んな意味で怖いので、そちらを見ないようにして王たちの反応を窺う。父親である王はゆっくりとフィニアに近づき、彼女に聞いた。


「これは一体どういうことだ?」


「あー……やっぱり説明必要だよね」


 フィニアはぽりぽりと頭を掻きながら、昨晩の事を説明する。魔人のこともついでに説明した。けれども自分が女になった理由については、お見合いのことだけにしておいた。コハクの前で『コハクに嫌われたくなかったので女になりました』と言うのが何となく恥かしかったのが理由だ。



「……って、わけなんだ。ごめんね父さん母さん、嘘ついて」


 あらかた説明を終え、とりあえずフィニアは両親に嘘ついたことを謝っておく。王たちはまだ頭が混乱していて気にする余裕が無いのか、とくに嘘については何もコメントしなかった。


「信じられません、王女が魔人を召喚したなどと……」


 フィニアの話を聞き終えると、オリヴァードがそう言葉を漏らす。彼が信じられないのも無理はない。魔人を呼べるほどの術師はそう存在しないのだから。奇跡が起きる確率くらいに、魔人召喚は難しい。それでも魔力と魔術に関しての天性の才能があり、ついでに引きこもりで暇なんで魔人召喚を調べる時間が大量にあったフィ ニアは、魔人召喚を成功させてしまった。


「んー……じゃあ証拠見せるよ。……セーレ」


 フィニアが小さく名を呼ぶと、彼女の背後で突如紫の光が生まれる。王たちが驚愕する中、光は子供ほどの大きさの二人の人の形を成した。

 全く同じ容姿の魔人が二人、フィニアの背後に浮かぶ。それぞれ赤と青の色違いの服を着た魔人は、そろって「マスターフィニア、何か用か?」とフィニアに聞いた。


「彼らが、魔人……?」


 魔術を学ぶコハクは、驚きと興味の入り混じった眼差しで魔人を見つめる。確かに彼らからは膨大な魔力を感じる。そして人ではない、何か神秘的な力も。

 視線を移した彼女は、魔術界の王とも呼べる魔人を従えているフィニアを複雑な心境の眼差しで見た。

 彼女にとって兄は最悪な変態だったが、しかし魔術師としては自分よりも遥かに優れた者で、そして才能高い存在。自分がいくら努力しても、兄には届かないのだ。悔しいが、術者としてのコハクは兄を尊敬し、そしてそれ以上に嫉妬していた。


「用っていうか……えぇと、皆俺が魔人召喚成功したって信じてくれなくて泣きそうだから証拠見せるために呼んだんだ。ごめん」


 フィニアがそう言って魔人に笑いかける。二人の魔人は同時に溜息を吐き、直ぐにまた姿を消した。


「……フィニア様、あなた先ほど『セーレ』と言いましたね?」


 オリヴァードの問いにフィニアは頷く。王は「奇跡を呼ぶ者か……」と興味深そうに頷きながら呟いた。そして確かに奇跡を呼ぶ魔人のセーレなら、フィニアを女にでも魔物にでもなんにでも願えば変えてくれるだろうと皆納得する。魔人は魔術に精通する者の間では神聖な存在だし、それ自体が奇跡という認識なのだ。この場に いるほとんどの者が魔術に詳しい者の為に、魔人の存在を目の当たりにしてからの理解と納得は早かった。

 そして理解と納得が終わってからのこの二人の変わりようは凄かった。


「フィニア~可愛いわね~! もう、お母さんにそっくり! コハクにもそっくり! 可愛いわ~!」 


「ふにゃっ!」

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