第19話 彼と彼女の出会いのお話 19
「俺女になったけど、これでウィスタリアの王子と見合いして本当に結婚することになったらどうしよう……でもウィスタリアと仲良くなれるチャンスは逃しちゃいけないと思うし、男のままじゃ多分見合い成功しないだろうから、そうしたら国を発展させるチャンスを逃す事になるんで俺は女になったわけで……あれ、けど俺はやっぱり可愛くて清楚で可憐な女の子と恋して結婚したいし……でもやっぱりそんなの夢のまた夢だから諦めて王子と見合いしたほうが……あー、何をどうすればいいのかわかんない! 頭痛くなってきた!」
混乱して魔法陣の中をぐるぐる回り始めたフィニアを、魔人二人は興味深そうに目で追う。ロットーは呆れたように溜息を吐き、「王女、とりあえずお見合いすればいいんじゃないでしょうか?」と混乱しているフィニアにアドバイスをした。
「王女の話聞いてると、それも女の子になった動機のひとつみたいですし。せっかくなんで思い切って王子に可愛さアピールしてきたらどうです? まぁ正直俺、王女が結婚してもしなくでもどうでもいいし」
「……うん、そうだよな。とりあえずお見合いだな」
アドバイスされて、あっさり悩み解決した様子でフィニアは元気よく頷く。本当に世話のかかる馬鹿だと、ロットーは疲れた顔でまた溜息を吐いた。
するとしばらく放置されていた魔人が、またわざとらしく咳払いをしてフィニアに話しかける。
「マスターフィニア、そろそろいいか?」
「あ、なに?」
フィニアが顔を上げると、魔人は「願いがあと一つ残っているが?」と聞く。そういえばこの魔人は願いをもう一つ叶えることが出来るのだと、ロットーは二人の会話をきいて思い出した。
「王女、そういえばあともう一つの願いは?」
「あ、それは……」
フィニアはロットーに言いかけて、しかし魔人に向き直ってこう話す。
「なぁ、セーレ。もう一つのお願い叶えるの、ちょっと待ってくれないか?」
「何故だ?」
首をかしげる魔人に、フィニアはこう説明する。ロットーも興味深げに彼、いや彼女の話を聞いた。
「あのさ、やっぱり男に戻りたいって思った時戻してもらいたい。最後のお願いはそれで、俺が戻りたいって思った時その願いを叶えて欲しいんだけど」
フィニアが二人で一つの魔人を召喚したわけは、保険の意味があったらしい。魔人は納得したように頷いた。
「……なるほど。しかし我ら魔人はあまり長い時間一人のものに縛られるわけにはいかない。タイムリミットがあるがいいか?」
「え! そうなの?!」
驚くフィニアに、魔人は少し考えた後「一ヶ月待ってやろう」と言う。思わずフィニアは「短っ!」と叫んだ。
「えー? 王女、一ヶ月も待ってくれるなんて結構良心的な魔人だと俺思いますけどー?」
ロットーの意見に賛同し、魔人二人は揃って頷く。フィニアだけは「十年二十年くらい待ってくれてもいいじゃん」とか図々しい事言っていた。
「マスターフィニア、申し訳ないが一ヶ月待って残りの願いを叶える気がないなら我らは帰らせてもらう」
「えぇ、マジで?」
「マジで」
「そんな~……」
そんな~、と言っても納得するしかない。フィニアは肩を落としながら、「わかった、じゃあとりあえずお見合いだけしてその後男に戻るかどうか考える」と答える。魔人は声を揃えて「そうか」と頷いて言った。
「では期限までは我らは姿を消すが、お前の側にいることを誓おう。呼べば直ぐにまた姿を見せる」
「わかった。じゃあよろしく」
フィニアが手を振ると、魔人は紫の煙となって溶けて消える。実際はフィニアの側にいるが、姿だけ消したのだろう。
「それじゃ王女、俺もういい加減寝たいんで今日はこれで終わりってことで解散でいいですよね?」
ロットーがあくびを噛み殺しながら問うと、フィニアは「うん、ここの片付けはまた今度にしよう」と返事する。
「そういや王女、王女のその姿を王たちが見たらどういう反応するでしょうね」
ロットーのその疑問に、フィニアは「喜ぶんじゃない?」と返す。ロットーが驚いたように目を丸くすると、それに気づいたフィニアは彼から目を逸らしてこう言った。
「だって俺は異端だからね。男で生まれたせいで、父さんも母さんも俺のことで苦労したんだし」
「王女……」
普段自分の出生など気にした素振りを見せないフィニアだが、やはり気にしていないわけではなかったのかとロットーは思った。そしてほんの少し彼……彼女に同情する。
「今の王女、なかなか可愛いですよー。コハクちゃんにそっくりで」
「あはは、ありがと。でもお前に言われても嬉しくないや」
フィニアはロットーの言葉に笑い、そして「もう部屋に戻ろう。眠いし」と言った。
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