第17話 彼と彼女の出会いのお話 17

 フィニアの姿が光に掻き消され、ロットーは彼の名を叫びながら眩しさに目を瞑る。フィニアも一応一国の王女なので、彼に何かあったら護衛の自分は首どころじゃすまないと、ロットーは光に包まれたフィニアの安否を真剣に心配した。

 やがて光は収束して消える。ロットーが恐る恐る目を開けると、魔法陣の中には先程と変わらずあの魔人二人がふわふわ宙を浮きながら存在している。しかしその魔人と向き合うフィニアは、明らかに先程とは違っていた。フィニアの後ろ姿がなんか一回り小さくなっている……ような気がするのだ。


「お、うじょ……?」


 ロットーはまた光りでチカチカする目を仕切に擦る。瞬きも何度もしてみる。そしてまたフィニアの方を見てみる。

 ……見間違いじゃない、どう見ても小さくなってる。


「っはー! いきなりびっくりした!」


 突然光に包まれたフィニアは、光が収まると安堵したように大きく息を吐いてそう叫ぶ。その声もなんか女の子みたいに高い。そして顔は確かにフィニアなのだが、男性的だった彼の顔は女性的な丸みのある顔立ちに修正されている。元々母親にだった彼なので修正に違和感は無く、むしろ妹によく似た可愛い顔立ちになっていた 。

 フィニアの変化にロットーが「え? え?」と困惑し始めると、フィニアも自分の変化に気づいたようで「お?」と自分の胸に手を当てた。そこには彼には本来無いはずの、柔らかい膨らみが。


「……なにこれ、すごいやーらかい」


 フィニアは自分の胸に出来た膨らみを興味深そうに揉み、そしてハッとしたように彼は「まさか!」と叫びながら自分の股間に手をあてた。そこには本来あるべきはずのものが無くなっている。フィニアのぶっ飛んだ願いは叶えられ、彼は背格好顔立ち全てが確かに女の子になっていた。


「うわ、マジですごい! 女の子だ! 視線低いし声へんで俺じゃないみたい! なんで!? どういう仕組みの魔法?!」


 興奮するフィニアに、赤の魔人は神妙な面持ちで「それは秘密だ」と答える。フィニアはちょっと残念そうな顔で、「やっぱり魔人の奇跡の力かー」と言った。その時、後ろでロットーのマヌケに震える声が聞こえる。


「おうじょ……あんた何してるんですか……?」


 ロットーの方を振り返ると、彼は信じられないものを見るような目でフィニアを見ている。確かに”女の子になったフィニア”なんて信じられないものだろうが。それにしてもここまでマヌケに呆然とするロットーをフィニアははじめて見たので、フィニアもちょっと驚いたように「ロットー、驚きすぎじゃないか?」とロットー に声をかけた。


「いえ、だって王女……? え? 女の子? どうしてっていうか……本当に女?」


「ホントホント、胸もマジものだよこれ。触らせてあげないけど」


 小さすぎず大きすぎずの自分の胸を触りながら、フィニアは妙に冷静に自分の変化を受け入れている。まぁ、自分がお願いしたのだから当たり前といえば当たり前なのだが。それにしてもロットーには色々わけがわからない。彼はまだ混乱しながら、フィニアに「じゃあなんで女の子に?」と聞いた。フィニアは膨らみある胸を張って、堂々とこう答える。


「それはだって、俺もう直ぐお見合いがあるから」


「……意味がよくわからないんですけど」


「え? だってロットー、お見合い相手は男の人なんだぞ? 男のままお見合いしたらまずいだろ」


「……それで、女に?」


「そうそう、そういうこと」


 自信満々なフィニアのよくわからない理論を聞いて、ロットーは真面目にこう思った。こいつは想像以上の馬鹿だと。


「王女、こんなこと王女に言うのは失礼だと思いますけど」


「なに?」


「王女はどうしようもない大馬鹿ですね。もーウルトラバカ。笑っちゃいますよ、バカすぎて。あはははは、このばーかばーか」


「なっ!」


 フィニアは「ホント失礼だな!」と笑うロットーを怒る。フィニアに杖で頭を殴られたロットーは、「やめて王女、杖で殴るの結構痛いから止めて!」とフィニアの攻撃から逃げながら言った。

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