第13話 彼と彼女の出会いのお話 13

 王のその言葉にフィニアはがっくりと肩を落しかける。しかし彼はまだ諦めないと、王にこう反論した。


「駄目だって! ほら、ウィスタリアから王子様やって来るんだろ? ウィスタリアの王子様っていえば人気ある王子様だし大事なお客様だし、そういう人がここに来るんだからうちも万全の態勢でお出迎えしないといけないと思うんだ」


 フィニアのその言葉に、王の後ろで控えていたオリヴァードが控えめに声をあげる。


「そうですな、姫の言う事も一理ある。ウィスタリアの王子を迎える上で、安全対策に万全をきす必要はありますぞ」


 オリヴァードの言葉を聞いて、フィニアは笑顔で「そうそう、そうだよ」と何度も首を縦に振る。王妃も「そうね、大事なお客様を迎えるんですものね」と、二人の話を聞いてちょっと納得しかけていた。


「う~む、しかしなぁ……」


 けれども王は、そうやたらと腕輪を外す許可を出せない為に渋い顔で結構慎重に悩む。フィニアはあともう一押しだと、王に詰め寄った。


「父さん、お願い!」


「……まぁ、結界ならばいいか」


 王も納得し、「それならば外す許可を出そう」と頷く。フィニアはぱっと笑顔になって、「よし!」と小さくガッツポーズをした。


「これで魔人が呼べるぶつぶつ……ふふふっ」


 怪しい笑みで何かブツブツ言うフィニアに、王は「フィニア、どうした?」と声をかける。フィニアは慌てて笑顔を作り、「ううん、なんでもない!」と首を横に振った。


「それじゃ母さん、早速外して欲しいんだけど」


 フィニアはそう言って王妃に自分の右腕を差し出す。王妃は怪訝な顔で、「あら、そんな今すぐに魔法使うの?」とフィニアに聞いた。


「え? うん、まぁ……ほら、やるなら早い方がいいだろ? 来週にはもう王子こっちに来る予定なんだし。今夜にでもさ、ね」


「……では外しますけど」


 王妃はフィニアの腕輪に右手で触れ、小さく呪文を唱える。それはとても簡単な、魔法の効果を打ち消す解除呪文。魔法的な力で腕輪はフィニアの腕にはまっていたので、王妃の呪文で腕輪に埋め込まれた赤い宝石が色を変え、翠の輝きになると同時に腕輪は直ぐにフィニアの腕から外れた。

 腕輪が外れても、これといってフィニア自身に何か目に見える変化が起きるわけではない。しかしフィニア自身はいつもこの瞬間に、体の奥から何か強いものが無限に湧き上がるような感覚を感じる。彼の紅い瞳は生き生きと輝いた。

 外した腕輪を王妃から受け取り、フィニアは「ありがとう、父さん母さん」と二人に頭を下げる。


「それじゃちょっと今から結界の準備するからじゃーねー!」


「あ、おいこら待ちなさい! お前が魔法使う時は、誰か見張りをつけなくてはいけないということは忘れていないだろうな!」


「忘れてないよ! 大丈夫、いつも通りロットーに見張らせるからー!」


 フィニアが叫んで答える。だが本来ならフィニアと親しいものが見張り役になるのは、フィニアが暴走して怪しい魔術に手を出しても彼を止められないかもという理由で禁止されているのだ。しかしフィニアが十八年間これといって危険なことをしてこなかったので、最近彼が魔術を使う時の規制は微妙に適当になってきている。 フィニアが性格的に危ない事をするような危険性もないと判断されている、ということも理由なのだろう。

 王と王妃は今回もフィニアを信用し、手を振って元気よく部屋を出て行くフィニアを見送った。そしてそれが元気な”息子”の姿を見る最後になるとは、この時王も王妃も、そしてオリヴァードも誰もそんなこと微塵も思わなかった。

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