第12話 彼と彼女の出会いのお話 12
フィニアが駆け足で城の長い廊下を渡っていると、前から妹のコハクとその護衛のマリサナが歩いてくる。
「あ、コハク」
「げっ」
フィニアがコハクに気づいて走るのをやめると、『げっ』とか思わず言っちゃったコハクは、ひどく嫌そうな顔で兄の顔を見る。その後ろでマリサナは苦笑いでフィニアに頭を下げて挨拶をした。
「あ、えーっと……コハク、久しぶり。マリサナも……は、さっき会ったね。あー……げ、元気?」
普段地下書庫に引きこもるか部屋にいるかのどちらかなので、実の妹ともろくに顔をあわせないフィニアは、とても緊張した様子でコハクに声をかける。マリサナは控えめに「はい」と返事し、コハクは不機嫌そうな顔で兄を無視しようとした。しかし彼女は先程王たちから聞いた話を思い出して、思いなおしてフィニアに話しか ける。
「”お姉さま”、聞きましたよ。近くお見合いをするそうですね」
「うげっ……」
コハクの嫌味たっぷりな呼び方よりも、フィニアはお見合いの事実を彼女が知っていることにショックを受ける。まぁ、冷静に考えれば彼女が知ってて当たり前なのだが。
「ら、しいね……」
「何でもあのウィスタリアのイシュタル王子がお相手だとか。……お父様もお母様も一体何を考えてるんでしょう」
コハクの呟きに、フィニアも他人事のように「だよね」と頷く。するとコハクはジトッと恐ろしく座った目でフィニアを睨んだ。そして彼女は最大級の非難を叫ぶ。
「不潔!」
「えぇ!?」
コハクの突然のきつい一言に、フィニアはショックを受けるよりも呆気にとられる。マリサナが「コハク様、暴言はいけません」と注意するも、コハクはかまわず続けた。
「なにが『だよね』よ! お兄様は男でしょう?! どうして男性と結婚するの?!」
「コハク、まだ結婚すると決まったわけじゃ……」
「うるさい! もう本当に大嫌い! 私に顔見せないでください! 気持ち悪い、馬鹿!」
コハクはフィニアに言うだけ言って、元来た道を戻る形で走り去る。フィニアが「待って」と呟くも、その言葉はコハクに届かず虚しく消えた。
「す、すいません王女。あ、失礼します」
マリサナも、フィニアに頭を下げてコハクの後を追う。フィニアは二人の消えた廊下で、寂しげな表情で深く溜息を吐いた。
◇◆◇
「父さん母さん、ちょっと頼みがあるんだけど……」
フィニアは妹に徹底的に嫌われたことに心底へこみながら、両親の元を訪ねる。王はフィニアに「なんだ? 見合いの事で何か不安でもあるのか?」と聞いた。
「見合いに不安あるっていうか、不安しかないよ。でも今はそのことじゃなくて、ちょっとお願いがあるんだ」
「あら、どうしたんですか?」
王妃が優しく笑い問うと、フィニアは自分の右腕を二人に見せるように持ち上げる。その腕には、赤い宝石が埋め込まれた銀の腕輪が嵌められていた。それはフィニアの魔力を抑える魔法具・アーティファクトの品。
「ちょっとこれ外したいんだけど」
単刀直入に言ってみる。笑顔のフィニアに、両親も笑顔で揃って「駄目」と言った。
「ちょっ、父さんも母さんも返事早いね。もっと考えるとか、理由聞くとかしないの?」
「だって駄目ですもの」
「あぁ、駄目だ」
予想していたとはいえ、やはり駄目だよなとフィニアは内心でちょっとがっかりする。でもこれで諦めるほど、彼の魔人召喚に対する情熱は小さいものでは無かった。
「じゃあせめて理由だけでも聞いてよ。それでちょっとくらい考えて。ね、お願い!」
フィニアが懇願すると、両親も色々かわいそうな息子にわりと甘いので、「じゃあ理由くらいは」と頷く。フィニアは早速説明を始めた。
「あのさ、俺……」
しかしフィニアは何となく正直に話さないほうがいい気がして、思わず嘘の説明をし始める。魔人呼びたいんで腕輪外してください☆ と馬鹿正直に言っても、何となく許可されないような気がしたのだ。お馬鹿なフィニアだが、そういうところに知恵は回る。
腕輪は主に、この国の為にフィニアが魔法を使う時に外すことが許可される。そういうわけで。
「……そう、新しい防御結界を張ろうと思って。あのさ、書庫で色々グリモワール読み漁ってたら今の結界よりも十倍丈夫で長持ちする結界魔術思いついたんだ。でね、是非今の結界の上にその結界上書きしてもっと安全性を高めたいと思うんだけど……」
う~ん、ちょっと弱い理由だっただろうか……フィニアがそう思いながら両親の顔色を伺う。二人はちょっと考えるような顔つきで、顔を見合わせていた。
フィニアがドキドキして返事を待っていると、王が彼に向き合って口を開く。
「ふむ……しかしフィニア、今の結界も三ヶ月前ほどに新しく張り直したものだし丈夫だろう。そんなに急がなくても、その新しい結界というのは次に結界をかけ直す時にでも使用すればいいのではないか?」
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