第10話 彼と彼女の出会いのお話 10
そしてついにこの二人に、このとんでもない話が説明される時がやってくる。
何も知らず、とりあえずさっさと話を聞いて腕輪を何とかして外してもらおうと考えていたフィニアに、部屋で待っていた両親二人は最高の笑顔でとんでもないことを言ってのける。両親のまさかの言葉に、フィニアは一瞬にして腕輪とか魔人とか、その他色々な事を忘れた。
「え、俺が見合い?」
「そうだ、見合いだ」
父親である国王のまさかの発言に、フィニアはロットーと顔を見合わせる。そして彼はロットーに「見合いってあの見合いじゃないよね、まさか」と小声で聞いた。
「まさか、王女。きっとあれですよ、どっきり。王も王妃もお茶目さんですから」
「……だよな、うん」
こそこそ話し合う男二人に、王妃はにこやかな笑顔で「どっきりじゃないですよ、本当にお見合いですよ」と声をかける。フィニアとロットーは途端に硬直した。
「……え、本当にお見合い?」
「だからそうだと言ってるだろう」
「ええと、王。あの、お見合いとはあのお見合いでしょうか?」
「ロットー、お前が他にどんな見合いを知ってるのかは知らんが、俺は結婚相手を決める見合いの話をしているぞ」
王のその言葉で、やっと二人は事態を理解したらしい。同時に「えぇぇっ!」と驚愕を叫んだ。
「うそ、父さんそれ本気で言ってるのか?!」
「勿論だ、ははは!」
フィニアは何故かご機嫌で楽しそうに笑う王に詰め寄って、ひどく焦った様子で「ってか俺が見合いってどういうことだよ!?」と聞く。ロットーも心配した様子で、「コハク様じゃなくて、フィニア様が見合いなんですか?」と首を傾げた。
「王、それはちょっと無理があるんじゃ……」
「そうだよ父さん、俺男だけど世間じゃ女ってことになってるんだよ? 見合いなんてしたら、相手の……あれ、もしかして相手って男?」
フィニアのその疑問に、王と王妃は同じ笑顔で「勿論」「当然ですよ」と返事する。フィニアの顔色はみるみる真っ青になっていった。
◇◆◇
一方ウィスタリアの国でも、女王が怪しい笑顔で娘のイシュタルに今回のお見合いの話をしていた。
「王……いえ、母様それは本気でおっしゃっているのですか?」
こちらも王女との見合いの話をされてひどく困惑している。イシュタルの困った様子を見て、女王は「私はあまり冗談が得意ではないからな、本気だぞ」と涼やかな笑顔で笑った。
「しかし母様、私は世間では確かに男ではありますが、母様は承知しているでしょう? 私は本当は女なのです。見合いというか、結婚は……」
正直一生独身を貫くつもりだったイシュタルは、いきなり小さな島国の王女と結婚を意識した見合いをしろと言われ、これ以上無いほどに困惑の表情を見せる。娘の戸惑う顔がおもしろいのか、女王は紅を塗った唇を愉快げに歪め小さく笑い声をあげた。
「か、母様、笑っている場合ではなくて……」
「ふふっ、すまんイシュ。お前があまりにも動揺するのでついな。……しかしイシュ、これは我が国にとってのチャンスでもあるのだから。わかるだろう?」
女王の言葉にイシュタルは一瞬黙り込む。イシュタルは馬鹿ではない。女王が言いたいことは少し考えれば彼女も推測出来る。
「この国は確かに強いだろうが、しかし足りない強さがある」
「アザレアは魔術の国でしたね」
「我が国は隣国のスプルースや、西のエクルベージュに比べれば魔術の発展がひどく遅れている。ぜひアザレアの知識をもらいたい。そうすれば我が国はさらに守りの力を持ち、豊かにもなるだろう」
「政略結婚ですか……」
小さく溜息をついたイシュタルに、王女は薄く笑って問う。
「嫌か?」
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