第9話 彼と彼女の出会いのお話 9
今日も今日とて前日から地下書庫に引きこもってなにやら怪しく魔法陣を紙に描きまくってたフィニアは、お昼過ぎあたりに突然目を輝かせて「出来た!」と一人歓喜の声で叫ぶ。そして彼は地下書庫から飛び出し、書庫の出入り口でぐっすり昼寝をしていたロットーを起こした。
「ロットー、起きてくれ! 寝てないで起きて! 俺なんて昨日徹夜だったんだから!」
「にゃに……なんですか王女、ご飯ならさっき食べたでしょ」
眠そうに目をこすって起きるロットーに、フィニアは「違う!」とひどく興奮したように話しかける。
「ついに完成したんだよ!」
「はぁ?」
フィニアの言葉にロットーは首を傾げる。フィニアはロットーの耳元でなにやらこそこそと囁いた。そしてロットーは目が覚めたように大きく目を見開いて叫ぶ。
「魔人召喚の方法がわかったぁ?!」
「しー! ロットー声大きいって! しー!」
フィニアは小声で「魔法陣が完成したんだ、魔人を呼ぶ魔法陣が」と、ロットーに説明する。しかし魔法に関しては専門外なロットーは、「はぁ、そうなんですか」としか言えなくて、フィニアに「なにその薄い反応は」と突っ込まれた。
「いや、だって俺王女みたいに魔術に詳しくないから魔法陣とか言われてもよくわからないんですけど」
「でもお前さっき、魔人召喚には驚いてたじゃないか」
「えぇ、魔人くらいなら俺も知ってますから。だから驚いたでしょ?」
魔人とは魔術世界の番人。詳しいことはロットーのような魔法の素人にはさっぱりなのだが、世界の魔術はこの番人である魔人が発動を許可して、世界に魔術が具現化しているらしい。
「魔人っていえば、つまり魔術世界の王様みたいな偉い人なんですよね?」
「んー……まぁ、そうだね」
「とっても力がある」
「そうそう、すごい力がある存在」
「普通そんな存在を個人が呼び出すことは出来ないんですよね?」
「ん……まぁ、普通は。俺、呼ぶけどね」
ロットーは「もしかして女王、今までずっと書庫で引きこもっていたのって」と、フィニアに訝しげな視線を向ける。
「その魔人を呼ぶために……?」
するとフィニアは最高の笑顔で「そう!」と力強く頷いた。
「魔人召喚の具体的な方法はどのグリモワールにも書かれていないから、呪文から召喚道具、魔法陣まで全部見つけ出すのは本当に苦労したよ!」
「へぇ……そりゃすごいですよ王女」
魔人召喚は魔術に精通する者たちの間では、奇跡の術として噂されている。過去に魔人を召喚したことのある魔術師は何人かいるようだが、皆その方法を具体的には書に記さなかった為に、魔人の召喚方法は自力で見つけ出すしかない。あるいは魔人たちが自分を召喚したものたちに、自分たちを呼ぶ方法を詳しく書に記する事を 禁じたのかもしれない。
とにかく魔人召喚は魔術師が憧れる、一度は行ってみたい奇跡の術の一つなのだ。
「でもホントに呼べるんですか?」
ロットーが半信半疑に聞くので、フィニアは胸を張って「大丈夫、呼べるよ」と答える。
「理論上多分完璧。魔法陣作製にてこずったけど、やっとさっき完成したんだ。あとは父さん母さんを説得して、この俺の手の腕輪外してもらえさえすれば……」
「ってゆーか王女、なにをそんなに頑張って魔人召喚しようとしてたんですか?」
「それは……」
フィニアが何かを答えかけようとした時、マリサナが二人を見つけてやってくる。
「やはりここにいましたか。王女、陛下たちがお呼びです」
「え? 父さんたちが?」
マリサナの言葉にフィニアは怪訝そうな様子で立ち上がり、「何の用だろう」と首を傾げる。マリサナは「大事なお話があるとおっしゃっていましたよ」と答えた。
「大事な話? なに、なんか怖いな」
「あはは、お見合いの話とかだったりして」
ロットーのふざけ半分な言葉に、フィニアは「それはないよ」と笑う。そして彼は「んじゃロットー、なんか怖いから一緒についてきてくれよ」と、ロットーと共に王たちの元へと向かった。
◇◆◇
「イシュタル、いますか? あの、お母さ……いえ、女王が呼んでます」
「え?」
城に戻りお風呂でさっぱりしたイシュタルの部屋に、姉のロザリアが何やら微妙な顔でイシュタルを呼びにやってくる。
「あぁ、わかった。じゃあ今行く……けど、姉さん?」
「え? えぇ? な、なんですか? うふふふふっ」
姉の様子がどうもおかしい事が気になり、イシュタルは首を傾げる。何か姉は妙にそわそわしているし、挙動不審だ。自分を見る目も何か探るようなものだし、イシュタルはとても姉の様子が気になった。
「姉さん、どうかしたのかい?」
イシュタルが訝しげに問うと、ロザリアはおもいっきり何かありそうなくらい首を激しく横に振り、「ううん、全然何も問題ないですよ」と答える。イシュタルは姉の様子が激しく気になりながらも、とりあえず母の元に行ってみることにした。
「あ、あ、イシュ!」
「ん? なんだい、姉さん」
部屋を出て行こうをするイシュタルを、どうにも怪しい様子の姉が呼び止める。ロザリアはイシュタルの問いかける視線に、ひどく困り果てたような視線を返して彼女にこう声をかけた。
「イシュ、ファイトですよ! ヤケにならないで!」
「へ?」
一体何がファイトでヤケなのかさっぱりわからないが、イシュタルはよくわからないなりに姉が自分を応援してくれてるのは理解したので、とりあえず苦笑いで「うん、ありがとう」と頷いた。そして彼女は母親の元へと向かう。
「……あぁ、心配です。イシュ、どうなってしまうんでしょう……」
姉のひどく心配そうなその呟きは、背を向けて廊下を進むイシュタルには届かなかった。
◇◆◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます