第7話 彼と彼女の出会いのお話 7
「表向き女性ということにしていますが、フィニア王女はアザレア王家では生まれることの許されぬ男児です。見合いなど出来ませんでしょう」
至極まともなオリヴァードの指摘に、しかし王は動じることなく「いや、大丈夫であろう」と笑顔で言葉を返す。
「王よ、その根拠の無い自信は一体どこから来るのかわたくしには理解できませんぞ」
「いや、何とかなるだろう。俺もな、カレラに恋をした時は何とかなるって気持ちで彼女に告白をしたのだ。それで今はこのとおり、可愛い子供が二人も生まれてな、なんとかなったのだ」
「いやだわあなた、そういう話は恥ずかしいですって」
王と王妃のいちゃいちゃに呆れるオリヴァードは、「王は器の大きい男なのかただの馬鹿なのかわかりませんぞ」と小さく呟く。娘、もとい息子のフィニアは間違いなく王のお馬鹿なところを引き継いだのだろうとも彼は思った。
「まぁそういうわけで近くフィニアを見合いさせる。相手ももう決まっているしな」
「なんとっ!」
王のその一言に、オリヴァードは本気で目を丸くし驚く。まさかもう見合い相手まで決まっているとは。しかしこの後オリヴァーとは、見合い相手の名を聞いてさらに驚く事になった。
「して王、お相手とは一体……」
「うむ。まずそれを発表する前に、俺の話を聞いて欲しい。この国は今、フィニアの結界魔法のみで安全が保たれている状態であろう」
「えぇ、承知しておりますぞ。王女は王女なりに引きこもりながら国を守っているのですね」
「そうだ、あの子はただの引きこもりではないのだ」
「でも引きこもりなんですけどね、ウフフ」
「あぁ、引きこもりだがな」
何もしていないと思われている引きこもり王女のフィニアだが、実は国を守る為に重要なことを行っているのだ。引きこもりだが。
アザレアの王家は高名な術師の家系でもある。ついでにこのアザレアという国は、初代アザレア王で強大な力を持つ魔術師でもあったソルフェリノが魔術で地形を変えて生み出した島国と言われている。
アザレアの血を引く者は皆高い魔力を持って生まれるのだが、とくに男性はその持って生まれる魔力が桁違いに多く、魔術師としての素質も高い。その力は”魔人”と呼ばれる魔術世界の番人にも匹敵すると言われるほどのものなのだ。それゆえに男児は異端視されて”災い”と言われ、生まれてもすぐに殺されて処分されてしまう。大きな力は一人が持つと災いを生み出す事が多いからだ。実際アザレアが国として出来る前、アザレアの血を引く男子が魔術で世界を破滅させかけたとかで、そんないやな話が今も世界中でこそこそ囁かれている。
そんなわけでフィニアも例に漏れず大きな魔力を持って生まれたアザレアの男子なのだが、彼を守りたかった王と王妃は彼に魔力を抑える腕輪を嵌めた。そうすることで彼は安全な人間になると、王たちは彼を生かすことに反対する者たちに訴えたのだろう。腕輪を嵌めてさえすれば彼は、そんなに危険ではない普通の魔術師並の魔力しか持たない人間になる。さらに腕輪を外すことは王と王妃がそれを許可しなくては出来ないし、勝手にそれを外してしまえば彼は処刑され殺される約束になっていた。
意外と大変な制約の中でこそこそ生きることになっているフィニアは、その馬鹿魔力を最大限に生かして島全体に強力な結界魔術を施していたりする。結界魔術は年に一度の満月の夜に、腕輪を外して生き生きするフィニアが心底楽しそうに呪文を唱えて、魔法攻撃や砲撃に対して効果のあるものを張る。しかし実は兵士もろくにいないこの国の防衛手段は、今のところこの結界くらいなのだ。あとはいざとなったらフィニアが人間砲台になって魔術で暴れる予定だが、それにしても国を守る力がこれではある意味ではすごいが、でも冷静に考えると少し国として貧弱すぎる気もする。
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