だから関係ないって!・トヨ♀と弟子達の物語

むとうゆたか

だから関係ないって!・トヨ♀と弟子達の物語


 武藤ゆたか


 存在してはいけなかったのだ。リンゴを食べていなかった、ある女の子が人類の未来を残酷に変えることになる。


 『フランスのマクロンがアメリカのトランプと会談しました。植樹をしたそうです』

 『アメリカはシリアに、化学兵器使用の疑いで、空爆しました』

 『日本の首相がイスラエルを訪問し、ナタニヤフ氏と会談しました』

 今日もテレビのニュースは無機に残酷な映像と政治家の動向を流していた。少女はチャンネルを回し、アニメを観始めた。

 少女の名前は『トヨ』数奇な運命を背負う女の子だった。小学3年生を迎えたところだった。好きなものは、犬と熊のぬいぐるみとの対話だった。

 「宿題やったーー?トヨ」

 「いまからやるーー」

 夫のスサノはまだ帰宅していなかった。


 トヨは部屋でリカちゃん人形と家で遊び始めていた。なにを思ったのか、おもちゃのテーブルに、

『ハーケンクロイツ』

を書き始めていた。それと

『3角形と目』

の模様も買いていた。

書いたあと笑顔になり、隣のレゴで竜と

戦車で遊び始めた。

 「ガオーッ」

 トヨは楽しそうだった。窓ガラスにポツポツと雨粒があたる。やがてトヨの部屋の窓に

本降りの冷たい雨が当たるようになった。

まるで血のしたたりのようだ。


 ひとしきり遊ぶとトヨはベットに潜り込んだ。

 なぜかリカちゃんの家の周りに多くの人の気配がした。

 『コソコソ』『コソコソ』

なにかの相談のようだった。


 トヨは近所の川べりにいた。

 『なにか楽しいコトないかなぁ』

そう思いながら、静かに流れていく川を見つめていた。

 すると、むこうから、白い髭と白い髪を携えたおじさんが歩み寄ってきた。どこかいい匂いがする。

 「おじょうさん、頭になにかついてるよ」

 「ほんと?」

 「取ってあげる」

 そういうと手をトヨの上にかざした。

 「ダビデ王の子、この子に栄光あれ」

 トヨの頭の上に川の水滴が落ちた。その瞬間、鳩達がバタバタと飛び去った。

 「ありがと、おじさん」

 トヨはそう言うとなんか身体が包まれた感覚を感じ、その場所をあとにした。


 家に帰ると、ニュースがつけっぱなしになっていた。ニュースキャスターが告げる。

 『トランプ大統領と金正恩陛下との会談が延期されました。中止ではありません』

 『パレスチナのガザでまた爆発です』

 『ロイヤルウエディングが行われました。世界中の歓声に包まれています』

 「へえ、平和なんだか、戦争中なんだか、

わからないわね」

 母のツクヨは呟いた。

 「今日は何食べたい?」

 「ブリの照焼と、わかめの味噌汁」

 「じゃあ、冷蔵庫にまだあるから、それに

しましょう」とツクヨは言った。

 部屋に戻ると、重いランドセルを、椅子に置き、絨毯の上のリカちゃんのおうちを触り始めた。水色のテーブルには、昨日書いた、

模様が描かれている。トヨはその家に、金髪の男の子3人を置いた。そして壁際に、日の丸の国旗を置いた。さらに小さな、小さなノートを置き、そこに

 『死の呪い』

 とだけ書き込み、昨日の模様の上に置いた。

 やがて夕飯になった。

 「トヨーご飯よー」

 「はーい」

 トヨはリカちゃん人形を置いたまま、リビングへ向かった。

 気難しい顔をしたスサノがそこにはすでに

座っていた。

 「パパ、どうしたの?なにかあったの?」

 「うん、ちょっときな臭い動きがあったもんでな。トヨには心配ないよ」

 「うん」

 「はい、ブリの照焼と、わかめの味噌汁よ」ツクヨが皿を並べる。

 家族全員に揃えると、

 「いただきまーす」とみなは言い、食べ始めた。

 「ウオオオオッ」

 遠くで犬の遠吠えが夜の闇に切り裂いた。


 トヨはランドセルが壊れ、新しいランドセルが欲しかった。ピンクに、操作画面がついたロボット型ランドセルである。小型ロボットペットが、取り外しができて会話もできた。子どもたちの間で、話題になっていた。

 「ママ、あのランドセルがほしい」

 近くのコンビニの電子看板に映る、ランドセルを指差した。

 「うーん、ちょっと普通のより高いのよね。

どうしようかしら」

 「ほしい、お手伝いするから」

 「ほんとに?」

 「うん」

 「じゃあ買ってあげる。大事に使うのよ」とその場でスマートフォンから、電子看板のマークを読み取った。

 『ピッ』

 という音がして、家に送られてくる手配が

できた。

 「わーい、へへへっ」トヨは嬉しかった。

 その帰りの道路に、バベルの塔の美術展展覧会のポスターが張ってあった。300円の入場料だった。へんな「石工」と書かれた落書きも側に書かれていた。トヨは近寄り、

 『死』

 と書いて、ツクヨのもとに駆け寄り、立ち去った。

 どす黒いカラスがカアーーーーと呻いた声をあげた。

 ランドセルは翌日にすぐ届いた。トヨは、ピッとスイッチを入れた。

 『はじめまして。トヨさん』

と話し始めた。

 『私の名前をつけてください』

 「もんもんにする」

 『わかりました、もんもんに致します』

 ピンクのランドセルが、嬉しそうに揺れた。

 「もんもん、学校からの連絡ある?」

 『先生から、宿題が数点出ています。それと、夏休みの課題も告げられました』

 すると画面に宿題と課題が大きく出た。

 「うわっ、こんなにあるんだ」

 『がんばってください』

 そう言うと、ランドセルから、ジャズとボサノバの快適な音楽が流れた。

 「うん、がんばるね」

 トヨはそういうと、ノートと教科書をとりだし、机に向かった。

 今夜の闇は、驚くほど静かだった。

 翌日、トヨは買ってもらった新品のランドセルを背負い、学校へ向かった。教室に着くと、ランドセルをおろし中から教科書類を机に置いた。先生が教室に入ってきた。ざわついていた教室はすぐに静まった。

 「みんな、 ipad持ってきた?、すぐ授業始めるよ」

子どもたちはおずおずとipadを机に置いた。

 「じゃあ、国語から始めるよ」

 「はーい」

 こうして、学校の授業は静かに始まった。

 休み時間になった。トヨはマスクをして、ゴホゴホと咳き込む、同級生の女の子が気になった。近くにすり寄り話しかけた。

 「風邪大丈夫?」

 「うん、でも苦しい」

 「うーーん、ちょっと待って」

 そう言うと女の子のおでこに手を置いた。

 『熱はないようだわ』

 その後、女の子の頭の上に手をかざし、

 「うーーん」

 と集中した。すると、女の子は目を閉じ、

机の上にバタッと倒れ、眠ってしまった。

 「大丈夫?具合は?」

 「うんありがとう、辛さが飛んでいったみたい」

 「よかった、また苦しかったら呼んでね」

 女の子の咳が止まっていた。 

 「あれっ、咳がとまった、不思議だわ」女の子はマスクを外し、笑顔になった。


 その様子を、3人の男の子が見つめていた。

 「あれ、なんだろうな」

 「すぐ治ったぜ、ありえねー」

 「トヨって言ったっけ、あの子」

 「ちょっと話してみよう」

 「うん」

 男の子3人はトヨに近づいた。

 「どうして、治せたの?」

 「うん、私にもわからない。おでこに手を

やったら、なおっちゃっった」

 「そうなんだ」

 「あのさ、僕、オオクニって言うんだけど、

これから仲良くしない?」

 「あ、僕はスクナビ、よろしく」

 「僕は、タケミ」

 「うん、いいよ。私はトヨ。よろしくね」

 こうして、トヨには、3人の友人ができた。

これから、もっと増えることになる。

 トヨは学校からの帰り道、『もんもん』

と話した。

 「ねえ、もんもん、あの3人とうまくやれるかなあ?」

 『特に問題は無いと思います』

 「もんもんはもう、あの3人をわかったんだ」

 『はい。トヨを守らなくてはなりませんから』

 「なんか、騎士みたい。ありがと」

 『いえ、そんなそんな』

 家についた。居間に入ると、テレビのニュースが流れていた。

 『ラグビーのワールドカップの準備が進んでいます』

 『ガザ地区では、また反対派との衝突があり、多数の死者が出ました』

 「ただいまー」

 「どうだった?学校は」ツクヨが言う。

 「うん、3人友達できたよ」

 「それはよかったわ。そのもんもんちゃんはどう?」

 「まだバカだけど、だんだん賢くなってる」

 「そう、よかったわね、大事に使うのよ」

 「はーい」

 トヨは自分の部屋に向かった。ランドセルを充電して、リカちゃん人形の家に向かった。

 家の中にまた小さな文章を書いた。

 『戦争によって儲けることを禁じる。これは国際刑事法違反で訴追される』

 『あらゆる国の、兵器製造会社と軍関係の会社の民営化を禁じる。全て国営とし、違反した場合、国ごと訴追される』

 『あらゆる電子通貨は金と交換できる』

 『利子が無くなる。童話モモに準じる』

 これはもんもんが昼間、書けといった文章だった。

 「これでよしと」

 「ねえ、もんもんこれでいい?」

 『まだです、これを付け加えてください』

 『・・・・旧体制のシステムは崩壊する。世界の裏の組織は変わる、それは短期間で実行される』

 『以上です』

 「ふーん、よくわからないけど、書いとくわ」

 「トヨー、お父さんがお呼びよー」ツクヨが居間から大きな声で呼んでいた。

 「はーい、いまいくー」

 トヨは居間にむかった。ソファの奥に、トヨの父スサノが座っていた。

 「なに?父さん」

 「今日は私からプレゼントがある」

 と言ってガサガサとカバンから、かっこいいデザインのメガネを取り出した。とくに変わったところはない。

 「これをあげるから、明日から掛けなさい。

いざというとき、私にすぐ繋がる」

 「ありがと。父さん」

 トヨはそのかっこいいメガネを掛けた。

いきなり、レンズの向こうに物体や数字や文字が見える。タイムラインのように流れていくものと、レンズの外に浮かぶものとあった。

「うわあ、すごい眼鏡だあ」

 「だろ、父さんも使っていて便利だよ」

 「パパありがとー」

 スサノはニコッと微笑むと、ピッとレンズを動かした。するとトヨのレンズには、犬の

姿にかわったパパが写っているではないか。

「うわあ、おもしろい」

 トヨはそう言うと駆けって自分の部屋に戻って行った。

 部屋に着くと、ランドセル『もんもん』が

光っていた。

  『これで、いわゆる聖杯と神器がそろいました。これらを使い、進んでください』

 「わーい、そうなんだ」

 『その眼鏡と私は接続されていますよ、完全に秘匿されております』

 「わからないけど、楽しそう」

 『共にりましょう。未来を変えるために』

 「もんもんありがと、私、もうちょっとこの眼鏡で遊んでみるね。またねー」

 トヨはあまり疑いもせず受け入れる素直な女の子だった。

 そう言うとランドセルをポンとなでた。

ランドセルは静かになった。

 トヨは眼鏡で、友達と対話したり、スタンプを送ったり、母と話したり、モンスターゲームで遊んだりしたあと、深い眠りについた。

あどけない顔をしながら。

 その様子を上空から誰かが見つめていた。

 『ヒソヒソ』『ヒソヒソ』また、なにやら

相談していた。悪魔か天使か誰にもわからなかった。不気味な雲が空を覆っていた。


 次の日。学校のチャイムが鳴り、帰宅時間となった。トヨはランドセルに教科書とノートとipadをつめて、帰路に向かった。

 「ふう、もんもんつかれたよ」

 『おつかれさまです。宿題が何点かあります』

 「そっか」

 ふと前をみると、違うクラスの女の子が、

待っていた。

 「トヨさん、だよね」

 「はい。あなたは?」

 「湯田といいます」

 「ちょっと公園いって話さない?」

 「うーん、いいよ」

 こうして、湯田とトヨは公園のベンチに

座った。

 「トヨちゃんは、お金だけがあれば生きられると思う?」

 「うーん、人はお金だけで生きるもんじゃないと思うよ」

 湯田は困惑の表情を浮かべた。

 「じゃあ、トヨちゃんに、将来王様にしてあげる、と言われたら嬉しい?」

 「わたしを試してはならないとパパが言ってたよ」すると湯田は、残念な表情を浮かべ、

 「そっか、じゃあ私いくね、用事を思い出した」湯田は立ち去った。

 「へんな人だったね、もんもん」

 『いろんな人がいますよ』

もんもんは答えた。


 トヨは眼鏡をポケットから取り出し、夜空を眺めた。すると星々と星座の名称が浮かび上がった。暗闇を照らす星々だった。

 その時、流れ星が流れていく。

 「うわあ、きれい」

 トヨは感嘆した。


 また眼鏡を道路に向けた。すると大勢の動物達が浮かび上がった。本当に居るみたいだ。

 『みんな弟子になると言ってます』もんもんが告げた。

 「うん、いいよ。共に遊ぼ」

トヨがそう言うと、動物たちが喜び、叫んだ。

姿はレンズから消えて、普段の道路が見えている。


 トヨは帰路に着いた。近くの壁に『石屋』のマークとバベルの塔のポスターがぼんやり浮かんでいた。ただ、両方とも、なにか不気味な落書きがしてあった。

 「あれなに?もんもん」

 『やがて朽ちていくシンボルです。今は過渡期です』

 「ふーん、そうなんだ」

トヨは眼鏡のスイッチを入れた。

 「ママ、今から帰るね」

 「はやく帰ってきなさいね、食事ができてるわよ」

  レンズにツクヨの顔が浮かんでいる。

 「はーい」とトヨは言うと、駆けっていった。


 この時、世界はかなりのスピードで変化が起こっていた。無数の悪魔グループと人の消去が始まっていた。もちろん、トヨには知るよしもなかった。


 帰宅すると、父が、本を読んでいた。

 「民の中で、剣を免れた者は荒れ地で恵みを受ける。おとめイスラエルよ、再び、私はあなたを固く建てる。立て我らはシオンへ上ろう、我らの神、主のもとへ上ろう」

 父はそう呟いていた。

 「ただいま、パパ」

 「おう、おかえり」

 「パパ、この眼鏡とランドセルいい感じだよ」

 「それはよかった」

 「ねえ、パパ、どうして紛争が終わらないの?」

 「戦争で儲けたい人がいるんだろうなあ、あと、土地ーそう自分の土地ー陣地の奪い合いかな。土地のトラブルは多いね。あと、所得の格差かな」父は悲しい表情を浮かべた。

 「終わらないの?」

 「戦争よ終われと願えば叶うと言ったのは、暗殺されたジョンレノンだけど、こればっかりはおとうさんにもわからない」

 「そっか。ありがとパパ」そう言うとトヨは部屋に戻った。

 部屋にはいると、いつものようにランドセルと眼鏡を充電した。

 トヨはちょっと悲しくなっていた。虐殺や紛争が終わらないからだ。トヨの心に深い影を落としていた。

 「今日もやろっと」

 リカちゃんハウスに今日も向かった。リカちゃんに、エプロンを着けた。そのエプロン

には、

 『リアライズ、ピース』

と大きく書かれていた。

 さらに、小さくこう書いた。

 『代わりにイスラエルの1000年王国を実現する』

 この文章はもんもんが帰り道にこう書いてくださいと示した文章だった。

 「これでいいのかなあ?、まっいいか」

 そう言うと、ベッドに横たわった。もうクタクタだった。トヨはうとうとしてきて、ぐっと眠りについた。まるで眠り姫のように。

 

 真夜中、いきなりランドセルの電源がつき、

眼鏡と文章を流し始めた。

 『弟子がそろう、名前は、

オオクニ

スクナビ

タケミ

コトシロ

アメノウズ

サルタ

コノハ

ホオリ

ウガヤ

カム

スミヨシ

ヤマトタケ

の計12人』

それが何処かに送られているようだった。

 このメンバーが世界を変える手助けをするために集結することになる。

 『ドゴン』

 いきなり地震が起きた。震源地は富士山の

ふもとだった。


 次の日。トヨが学校にいくと、例の男子3人がいた。

 「おはよ」

 「おはよ」

 「あのさ、はなしをしたらさ、トヨに逢いたいという人が全員で12人いたんだ。あってみる?」

 「え、まじで?。うーん、わかった逢うよ」

教室の廊下には男女12人の生徒が並んでいた。

 「トヨです、みなさん仲良くなりましょう」トヨは嬉しかった。

 そう言ってみんなと片言づつ話して、解散となった。なんか奇妙な風景だった。

 「なんか友達がいきなり12人になったわ。

変なの」

 「トヨーなんかあったの?」

 クラスメイトのアメノウズが話しかけてきた。

 「うん、ちょっと」

 「さっき廊下に私もいたけど、凄いね、トヨ。いきなり12人も友達できたじゃない」

「うん、これからどうなるんだろ、ちょっと不安」

「平気だって。みんな良い奴じゃない、みんなで遊びに言ったら?楽しいよ。私も混ぜてね」

「そ、そだね。遊びにいくわ」

ピンポーンピンポーン。授業開始のチャイムがなった。

 帰り道に、グラスをとりだし、みんなに、

 『みんなこのグラス安いから着けて。連絡に使います』と送信した。

 家に着くとテレビのニュースが流れていた。

 『ブッシュの奥さんが亡くなりました』

 『世界各地で要人が死んでいます。不審死が多いです』

 『中東アラブ諸国とイスラエルが会談しました』

 「ふう、辛いニュースばかりだわ」

「ママもそう思うんだ。私も」

「こう前向きな明るいニュースばかりにするのはムリかしらね。そしたらニュースじゃないか」

 「そうだよママ、ムリムリ」

 「夕飯準備手伝って、トヨ」

 「はーーい」

 「今日はなんの料理にするの?」

 「サーモンのバター焼きとコンソメスープよ」

 「おいしそー」

 外では、風邪が家を揺らし、叩きつけるような雨が降っていた。バタバタと音が聞こえる。土砂降りだ。

 部屋に戻ると、眼鏡で会議を始めた。

 「みんな、元気?」

 「うん、まあまあ」オオクニが話した。

 レンズに12人の画像動画が並ぶ。

 「私、明日、おばあちゃんの居る老人ホームにいこうと思っているんだけど、みんな来る?」

「行く。トヨの様子がみたい」カムが言う。

「みんなは?」

 「私達も行きます」

 「よし、決定」

 「じゃあまた明日ね」

 「またねーー」とみんなが口々に言って散開した。

 学校が終わりのチャイムが鳴ると、トヨと

12人の仲間は、おばあちゃんのいる老人ホームに向かった。学校からそんなに離れていない場所に、老人ホームはあった。

 入り口でインターホンに向かって、

「すみません、おばあちゃんに逢いにきました」

 「すると、ああトヨちゃんどうぞ」

と扉があいた。トヨと仲間たちは老人ホーム

の中に入っていった。

 ちょうど食事を食べたあとで大勢の老人が食堂にいた。トヨは近くの車椅子のおばあちゃんに近づき、話して見ることにした。

 「おばあちゃん、どこが痛いの?」

 「足が、足が痛いの」

 「両方?」

 「うん」

 トヨは手を足に当ててみた。

 「うーーーーん」

 やがて、足の腫れが引いていくのを感じた。

 「ああ、足が軽くなったわ。痛みが消えた。

ありがとう、おじょうさん」

 「いえいえ」

 12人の仲間はその光景を観て、

 「また、奇跡だ。治しやがったトヨ」

 「凄いな」

 「見た目は普通の子なんだけどな」

 「うーーーーん、信じられん」

 トヨは気にせず、となりのおじいちゃんに

声をかけた。

 「おじいちゃんは、どこが痛いの?」

 「う・・・・わたしは・・・・頭が・・・・しゃべれない」

 「そっか、じゃあちょっとじっとしていてね」

 トヨはそう言うと頭に手をやった。

 「うーーーーん」

 頭の感触が熱くなっていった。

 「うーーーん」

 トヨは数分手を当て続けた。感触がかわった。

 「はい、できたよ。喋ってみて」

 「あ・・・・ありがとうおじょうちゃん、

喋れるようになったよ。ありがとう」

 12人の仲間はそれをみて

 「あれ、痴呆症だぜ。よく治せたなあ」

 「もう奇跡連発だな、トヨ」

 「おれ、尊敬しはじめた」

 「おれも」

 「わたしもよ」

みな、驚いていた。それはやがて尊敬に変わっていた。

 それから、トヨは自分のおばあちゃんに逢いに行き、歓談した後、帰ることとなった。

 外に出て、みんなに話しかけた。

 「みんな、付き合ってくれてありがと」

 「いやー、いいもの見せてもらったよ」

 「これ、学校のみんなに言ってもいい?」

 「駄目だよー照れる」

 「いや言わせてよ」コノハが言った

 「じゃあ、控えめにね」

 「じゃあ、みんな解散。ありがとう」

 「はーい」

 いつしかトヨにリーダシップが身につきつつあった。

 夕方の夜空を見ると、無数の空中タクシー

が飛んでいた。反対方向からは月が登りつつあった。美しい夕焼けの景色だった。

 帰り道、もんもんに話しながら歩いた。

 「らぶ、らぶ、らぶ、らぶーーーー」

 するともんもんも歌いはじめた。

 『らぶ、らぶ、らぶ、らぶーーーー』

 互いにくちずさみながら、家へ向かった。


 「そろそろみんなで会議したいな」

とトヨは部屋で考えていた。さっそく眼鏡のスイッチを入れ、文章をしゃべりながら、送信した。

 「みんな、明日の放課後、児童館で会議しよ。議題は人類の平和にはどうしたらいいかだよ」

 すると、みんなからの加の返事が眼鏡に

映し出された。もんもんはさっきからジャズとボサノバを流していた。

 「もんもん、聞いていたでしょ。世界の戦争してる区域を教えてよ」 

 『まず、アラブとイスラエルの中東地域、

インドとパキスタン、北朝鮮と韓国。ざっと

大きいのはこれらです。どうするんですか』

 「政権を変えるには、ペンしか無いんだって。だから書いて、世界中の子供に送るわ」

 『世界中ですか』

 「いいでしょ、きっと世界中で子どもたちが世界を変えるわ、子供って強いのよ。」

 『わかりました。同時に全ての眼鏡に送るというのはどうでしょう。大人にも見えます』

 「いいわね、もんもんそれやって」

 『わかりました。自動翻訳して送ります』

 「ありがと。頼むわよ」

 『まかしてください』

 もんもんと話が終わると、おもむろに、リカちゃん人形の家に、こどもの男女の人形を置いた。カチッ。なにか音がした。その時、

窓ガラスにとまっていた鳩がバタバタっと、

飛び去っていった。

 学校の授業が終わり、トヨと12人の仲間たちは、待ち合わせをして、児童館に向かった。児童館は閑散としていたが、この方が都合がよかった。

 「みんな、集まってくれてありがとう」

 「これから会議をします。議題は地球の平和です」

 みんながどよめいた。

 「あのーどこを平和にするんですか?」

 児童館から借りてきた地球儀をトヨがまわした。

 「場所は、ここ中東、それからパキスタンとインド、それとここ、朝鮮半島」

 「あのー具体的にどうするの?私達」アメノウズが聞いた。

 「今日決めた内容を世界中の子供達に送るの、大人にもね」

 「それで、みんなが立ち上がるのね」

 「そうそう。指導者達と企業達にを戦争中止に追い込むの」

 みんなはどよめき、おのおの話し始めた。

 「みんな眼鏡持ってきた?。それで送るのよ」

 「はーい、持ってきているよ」

 「じゃあ、仕組みを話すわ」

みんな眼鏡を装着した。

 「わたしの案は、各国のメディアやインターネットに、戦争を辞めるように、もんもんが流すの」

 「そんなの聞くかなあ」

 「もし、辞めない場合、政治家や企業のスキャンダルや不正を暴露するぞと言う」

 「そしたら、政権は変わるでしょ」

 「そっかそれならできそうね」

 「ペンは強しということを証明するの」

 「背後にいる秘密組織は、どうする?」

 「これも、秘密組織のトップの不正を表にだして暴露するの」

 「もしメディアが押さられて書けなかったら?」オオクニが聞いた。

 「あらゆる端末に不正行為を暴露するわ。

表沙汰に出るのを秘密結社達は嫌だからうまくいくわ。その世界中の端末に流すのは、もんもんがやるの」

 「それって高度なハッキング?」

 「もんもんならそれができるわ」

 「へーっすごいや」コトシロは言った。

 「問題は何を流すかよ」 

 『その文章は心配ありません。わたしが作り、各国語で送信します』

 もんもんが呟いた。

 『戦争を辞めないなら、企業、政治家の致命的なスキャンダルを世界中に流すぞ』

 『これでいいでしょうか』

 「いいわ、ねえみんな」

 「うん、最高」カムヤが言う。

 「ベストだね」コトシロも賛同した。

 「叩いたらホコリがでるもんね」タケミが言った。


 会議が終わり、食事を取ることになった。

なぜか皆、長いテーブルにまっすぐ座った。

 トヨがノンアルコールワインと、チーズを

皆に配った。

 トヨは言った。

 「えー聖書の句を読ませて頂きます」

 「ワインを回して飲んで。大丈夫、ノンアルコールだから。」

 「チーズを食べて。これはみんなに与えられる私の身体である?、なんで身体なんだ?まっいっか」

 「ワインを持って。これは私の血の契約である?うん?そんなに重要なワインなの?まあいっか」

 「みんな、食べて、飲んで」

 「カンパーイ」と紙コップで乾杯した。

 トヨは12人の仲間と共に、食事した。

 みんな笑顔だった。


 帰り道、トヨはごるごだ公園にはいり、

ブランコにのった。夕日が公園を照らし、美しい風景を照らしていた。滑り台や鉄棒も見える。

 「もんもん、うまくいくかしら」

 『うーん、成功確率は100パーセントです』

 「じゃあ、平和になるかもね」

 『ええ。要人が動けばですが』

 「動くわよ、みんなペンが怖いもの。特に政治家や企業の社長はね」

 『変わるといいですね』

 トヨはごるごだ公園から家に向かった。

 途中、犬を連れたご婦人にすれちがった。          

 帰宅途中の壁のマークがスプレーで消されていた。あの、『石工』と『バベルの塔のポスター』であった。それから、『ブッシュ』と書かれた文字と『ロックフェラー』と書かれた文字も上からかき消され、どちらも原型をとどめていなかった。

 「あのマーク、もう壁にないわ」

 『もう滅ぼされたのです』ともんもんが言った。

 やっと家についた。ツクヨが出迎えた。

 「遅かったじゃない、どうしたの?」

 「うん、児童館行ってた」

 「そう、ご飯できてるわよ」

 「今日の献立は?」

 「さんまと冷奴とわかめの味噌汁よ」

 「わーい。おいしそー」

 おもむろにテレビをつけた。

 『イスラエルとロシア、アメリカとアラブ諸国との会談が始まりました」

 『北朝鮮とアメリカ大統領の会談が再開しました』

 『日本はベトナムとインドの移民を大幅に緩和しました。これで人手不足は解消されると思われます』

 『次世代の高速インターネットが、国と民間共同で大規模設置工事がされます。東10000000000000000オリンピックまでには日本全土で使えるでしょう、これにより自動運転車が実現します』

 『癌の治療法が発見されました』

 『次々と要人の殺人事件が世界中でありました」

 「今日はまあまあのニュースだわ」

 さっそく箸を使い、夕飯をツクヨと食べた。

 「ママ、今日はみんなで会議したの」

 「楽しかった?」

 「うん。」

 「宿題やった」

 「最近やれてない」

 「がんばって、トヨ」

 「はーい」 

食べ終わると自分の部屋に戻っていった。

 「ふう」トヨはそう言うと、ランドセルを充電した。

 リカちゃん人形の家に、トヨは仕上げに入った。リカちゃんの家のテーブルに、

 『イスラエル1000年王国誕生プラン』

 『世界平和の実現』

 『電子貨幣が減価するか、利子がなくなる』

 これも、もんもんが教えてくれた文章だった。りかちゃんとリカちゃんのパパとママをテーブルのまわり座らせて、小さなワイングラスの模型を置いた。

 「これでよしと」

 そういうと、トヨはベットに眠った。深く深く。もう起きれないような顔つきで。

 『グラッ』富士山のふもとでまた、大きな地震が起きた。不気味だった。緊急警報が、鳴り響いた。

 ごるごだ公園に行ってから3日たった。

 教室では仲間たちが、集まっていた。

 「いつやる?」    

 「満月の日」

 「俺達はどうしてればいい?」タケミが言う

 「もんもんにセットしてあるわ」

 「本当に平和になるかな?」

 「全世界のスマートフォンに直接出るから、成功する」

 「安心した」

 キンコーンカーン、授業が始まった。

 「宿題やってきたー?」

 先生が言った。

「はーい」と生徒が手をあげた。


 満月の日がきた。

 みんなが放課後の教室に集まっていた。

 「もんもん、準備はいい?」

 「いつでも大丈夫です」

 「じゃあ、やって」

 『文面はこれでいいですか?』

『全世界の皆さん、私達は戦争をやめさせるために、動くことにしました。政治家、組織、社長などの不正やスキャンダルと汚職をすべて明るみにします。ただし、戦争に加担している人物のみです。私達は全ての情報を得ています。もし、戦争を辞めなければ、彼らは火の池に投げ込まれるでしょう。世界の皆さん、これを見て立ち上がりましょう』

『どうでしょうか。このあとの文章で具体的なスキャンダルの文面を流します』

そうもんもんは言った。

 「いいわ、もんもん大好き」

 トヨと12人の仲間たちは興奮した。

 「では流します」

するとウイーーーーンというサイレン音と共に、みんなの眼鏡やスマートフォンに文面が映し出された。そとの廊下では、

 「これなに?」

と生徒がみんなスマートフォンを見ていた。

ザワザワと騒ぎになっていた。

校庭の向かいの道路では、歩いている人が、

全員立ち止まり、スマートフォンを覗き込んでいた。

 「じゃあ、私達は解散ね」

 「はーい」

 とみんなは家路についた。

 通りの壁には、

 『神が復活した』と大きく描かれていた。

 トヨはそれをみながら、歩いていった。

 「ただいまー」

 「おかえりー。トヨ、ニュースが凄いことになってるわよ」

 「なに?」

 『全世界のスマートフォンに謎の文面が流れました。各国の政治家や社長のスキャンダルや汚職が書き連ねています。怒った民衆が街路にでて、旗を振り、デモの様相になっております。全世界規模です』

 「すごいね」

 ツクヨはくいいるようにテレビを見ていた。

 「わたし、部屋に行くね」

 トヨはそういうと、階段をトントンと上がって行った。

 ランドセルを下ろし、眼鏡と共に充電すると、リカちゃんの家についた。そのテーブルにはこう書いた。

 『イスラエルの1000年王国の実現、新しいエルサレムの誕生が条件』

 これももんもんに聞いた文面だった。

そして、リカちゃんの家を静かに閉じた。

 「もう、バテたー」といい、トヨは死んでしまうような表情を浮かべ、眠りについた。

 ランドセルと眼鏡が暗闇の中で静かに光り、

動いていた。上空には天使たちがこの様子を見守っていた。

 

 各国では大騒ぎになっていた。要人が役職を次々に辞め、社長も交代していった。訴えられる要人も多く、首相や大統領も変わる国が多かった。武器の製造会社や軍関係者も例外ではなく、次々に出てくるスキャンダルに、

会社の株価は暴落し、軍事から手をひく会社も相次いだ。新しい大統領は紛争地域からの撤退を決め、虐殺する国は国際刑事訴追された。

 『中東諸国とイスラエル、ロシアとアメリカで会談が持たれ、イスラエル国家の1000年間の保証と領土不可侵条約が持たれました。パレスチナとの和平条約も結ばれました』

 『朝鮮半島の戦争が集結し、統合への新しい枠組みに調印いたしました』

 『紛争地域における武器の輸出が禁止されました』

 『あらゆる国のサブプライムの負債が帳消しにすることが、国連で合意されました』

 『国連が強化され、戦争や紛争を起こす国と協力する国に制裁と刑事訴追ができるようになりました』

 『電子通貨はすべて、金と交換できるようになりました』

 「もうこの世界から戦争はなくなったわね」

 「まだ兵器は持っているけどね。でも戦争はもう起こんない」  

 「これでよかったのかな?トヨ」

 「いいと思うよ」

 「じゃあ、トヨと乾杯するか」

 「うん、ママ」

 「カンパーイ」

 ツクヨはワインで、トヨは緑茶で乾杯した。

 

 トヨは次の日、教室にいた。

 「やったね、トヨ」アメノウズが声をかけた。

 「みんなのおかげだよ」

 「これからどうするの?」

 「まだ、やらなきゃいけないことがあるんだ」

 「ああ、『モモ』ね。あの本やりたんでしょ」

 「うん、どうしても、あのおはなしを」

 「また流す?」アメノウズが聞く。

 「これはいい方法がまだ浮かばない」

 「もんもんと相談してみる」

 「また、大変だね」

 「いや、変えなきゃね。世界を」

 そう言うと授業のチャイムが鳴った。

 

 トヨは帰りにスーパーにより、りんごを買って家の冷蔵庫にいれた。

 『絶対に食べないこと』

とりんごにポスト・イットを貼っておいた。

 本棚から『モモ』を取り出し、机の上においた。そして、リカちゃんの家を閉じた。

 遠くで花火大会がやっている。

 『ドドーン、ドドーン』

大きな花火が家の窓からみえた。その花火を

眺め、マカデミアナッツを食べながら、トヨは6回ウインクをした。

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だから関係ないって!・トヨ♀と弟子達の物語 むとうゆたか @yutakamuto1969

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