第5話


入学式、校長の長いスピーチの間も里谷は小声で話しかけてきた。



「俺思うんだけど、やっぱりまた仲良くなるのが1番だよな。 話しかけて無視されるなら、絶対答えなきゃいけない状況を作ればいいんだよ。」


「それってどんな状況?」


「うーん……。 例えば、同じ委員会に入るとかは? 事務的なことでも話してるうちに、他の無駄話にも答えてくれるんじゃね?」




なんだ…。思ってたよりも、ちゃんと考えてくれてる。これなら確かに、前と同じような関係に戻れるかもしれない。


「…里谷頭いいな。でもどうやってだよ?」



不意に自信ありげに話していた里谷の眉が下がり困った顔になった。


「…めっちゃ頑張る?」


「やっぱ策無いんじゃん…。」


「いやいや、うまく推薦とか駆使すりゃいけんじゃね?」



絶対上手くいく気がしない……






「それでは、学級委員は須藤さんと榊くんにお願いしたいと思います。」


上手くいった……



桜と2人、教壇に立ちクラスメイトからの拍手を受けながら里谷の方を見ると、満足そうな笑顔を向けてきた。

確かに里谷のおかげと言えなくもないんだが……


ふと俺の頭の中に数十分前のことが浮かぶ。




「それでは、委員会決めていきたいと思います。まずは学級委員からね。男女1人ずつなんだけど委員になってくれる人いませんかー?」


担任からの問いに、生徒たちは無言を返す。



「えー、いないの? そんなに面倒くさくないわよ? ちょっと先生の雑用手伝ってもらったり、学校行事のクラス運営してもらうだけよ?」



「先生、それ墓穴掘ってますよー!」


「あらあら、失敗だったかな?」


流石ムードメーカー。 里谷は数日で、同級生から笑いを取れるほどまでになったらしい。そういう俺も里谷といたからか、早い段階でクラスの中心人物とみられている気がする。言わば、“一軍”への仲間入りだ。



“一軍”の存在に先生も気づいているのか、里谷に学級委員の勧誘を始めた。



「里谷くんはどう?学級委員やってくれたりしない?」


「えー、俺適当だから向いてないですよー。それより、俺は須藤さんのこと推薦しまーす!」


「あら、いいわね。 須藤さん、落ち着いて見えるし、そうでなくてもいい経験になるわ! ねぇ、須藤さんいいかしら?」


「えっ? あ、はい?」



強引にでも早く委員を決めたかったのか、先生は里谷の推薦に乗っかった。


そして自分には関係のないことだと全く聞いていなかったのか、桜は先生の問いに返事をしてしまった。



「じゃあ、女子の学級委員は須藤桜さんにお願いしますね!」


「えっ」


「あら? さっき返事したわよね?」



やっぱり話を聞いていなかった桜はここで自分の犯した過ちに気づいた。

しかし、先生の目が笑っていないことに気づいたのか逆らえないらしい。


「……はい。学級委員やります。」



先生の迫力のおかげか、面倒くさかっただけなのか、男子の委員への立候補は俺だけだった。


こうして俺は、あっさりと桜と同じ委員会に所属できることとなったのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る