第2話


教室にいる生徒全員が彼女を眺めている。そんな時間が10秒ほど過ぎた頃、里谷が空気を壊した。



「声かけてみようぜ、榊!」



里谷のコミュニケーション力の高さを羨ましく思いながらも、しかし綺麗な女子生徒が気になった俺は里谷についていった。



「俺、里谷幸樹!これからよろしくな!」

里谷は席についている彼女の隣に立ち、言った。


「めっちゃ可愛いね!よくスカウトとかされない?」


何を話しかけられても無視して本を読み続ける彼女に困ったのか、里谷は俺に話を振ってきた。


「榊もそう思うよな?」


「え? ああ、そうだね」


いきなり話に参加させられ、中途半端にしか答えられないでいると、彼女の肩が少し、だが確実に動いた。




やっと彼女の反応を見れたのが嬉しかったのか、里谷は俺を紹介し始めた。


「あ、こいつ? 榊徹だよ!割とイケメンだと思わね?」


「おい…」


彼女は勢いよく顔を上げ、里谷に呆れていた俺の顔をじっと見た。



「徹なの?」



涼しげな声に名前を呼ばれて、俺もやっと気付いた。



「…桜」



幼なじみとの3年ぶりの再会に驚きすぎて、俺は彼女の名前以外何も言葉にできなかった。





「桜ちゃんね! ってか、2人知り合いだったんだ。 偶然だねー!」


固まった俺に変わり、里谷が返事をしてくれた。


場を明るくしようと、俺らを話しやすくしようとしてくれた里谷に、桜は一言放った。



「名前で呼ばないでくれる?」


「…ごめんごめん! じゃあ苗字教えて?」


顔が少し引きつった里谷は、それでも何もなかったように、めげずに桜に話しかけた。



しかし、桜はもう話したくないとでも言うかのように読書に戻り、里谷を無視した。



「桜?」



俺は彼女の態度に違和感を感じ、彼女の名前をもう一度呼んだが、桜の顔が本から上がることはなかった。




「俺たち邪魔だよな。 榊、行こうぜ」

どうすればいいのか分からなくなった俺は、里谷に背中を押され教室を出た。


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