サクラいろ

しゃの

第1話


少し肌寒い中、花びらが人々の視界を桜色に染め上げるのも構わずに、風は吹き荒れる。



朝、逢関高等学校の玄関前では、どのクラスの所属か張り出されている紙の中から、自分の名前を探す生徒が学校の敷地からあふれていた。



友人と、同じクラスで1年を過ごせる事を喜ぶものや、反対に寂しがるもの、またこれから訪れるであろう素晴らしい出会いに心を踊らせるもの、様々である。



そしてここにもまた…



「すみません、通してください! っと、俺のクラスはー…榊…榊」


俺の名前、A組には無いな…

B組は、お? いや、あれは榊原だ。ややこしいなぁ。

榊…榊…


「あった、榊徹さかきとおる!」



思わずあげてしまった大きな声は周りの生徒に聞こえていたらしい。

周囲から聞こえる密やかな笑い声に俺の顔も赤くなっていく。

初日から恥ずかしいな…



それはそうとして、俺のクラスはD組か…



「……教室どこ?」







ようやく見つけたD組の教室に入ると、人数は少なかったがすでに騒がしかった。


中に入ると、見た目からしてムードメーカーみたいな奴を中心に盛り上がっているようだった。



「はじめましてだよな? 俺、里谷幸樹さとやこうき、よろしくな!」



教室に入った奴全員に声をかけてるであろうそいつは、俺にも自己紹介してきた。



「俺は榊徹、よろしく!」



里谷のノリは嫌いではなかったので俺も明るく返した。

きっとこいつがいるクラスなら、これから1年間楽しく過ごせるだろう。



思いのほか、里谷たちとウマが合い、そのまま話し続けていると、教室に一人の女子生徒が入ってきた。

それまでは、すぐに新しい同級生に声をかけていた里谷が黙っているのを不思議に思っていると、不意に里谷が呟いた。




「なあ、あの子可愛くね?」



「はあ?」


こいつは急に何を言ってるんだ、と思ったが彼女を見てすぐに俺は里谷に同意を示した。


確かに可愛いより綺麗という言葉が似合う女の子だ。

黒目が大きいアーモンド型の猫目は長い睫毛に縁取られている。顎のラインはすっきりしていて、鼻筋も通っている。日に焼けていない手足も長く、身長も割と高い。

173cmの俺と10cm差くらいかな?



そこらのアイドル顔負けの美貌を持った彼女は、クラス中からの視線を気にするわけでもなく俺の席の斜め前の席に着き、静かに文庫本を開いた。



俺の席から見える彼女の後ろ姿もやはり美しい。




だけど何故だろう?

俺はあの後ろ姿をどこかで見たことがある気がするんだ。



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