第4話 鈴木先生の場合
「ふ~む」
「先生、完成ですか?」
「うん? 月嶋か。まあ、ほぼ完成と言ってもええのかもしれんけどな……」
「……どこかの、日本にあるお城、ですよね? 石垣があって堀があって」
「うん。そやけどな……ちょっと物足りなさを感じててなあ……この風景に」
「……絵を描き始めたのがついこの間の僕にはどこが良いとか悪いとかわかんないですけど……まだ不足なんですか?」
「そうやなあ」
「真人くーん! 見て見て~!」
「宝? ……わっ! 何だよそれ……」
「何って、猫だよ! 勝手口の近くに座ってたんだ。かわいいね~」
「見りゃ分かるって。部室に勝手に猫なんか持ち込んじゃダメだろ。暴れて荒らされたらどうすんだよ……」
「そんなのしないよ~! こんなに大人しいもん」
「ほお~……三毛じゃな。この辺も猫が減ったからしばらく見んかったよ」
「にゃああああああ」
「ほれほれ、よーしよし……」
「ごろごろごろぐるぐる……」
「か、かわいいな。触ってもいい、かな?」
「でしょ~? 真人くんだって猫好きなんじゃないか~」
「……生き物と触れ合うことなんかまるでしないからな……今、自分が猫、好きな方って今さら分かったって感じだよ」
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「結局、外に逃がしちゃったね~」
「仕方ないさ。他の先生に見つかりそうだったし、美濃さんとか恐がるかもしれないし……あれ?」
「おーう、戻ったか二人とも」
「もう絵の具を片付け出しちゃって……絵、完成したんですか?」
「えっ、先生の絵、もう完成なの、真人くん」
「うん、そっちに置いてあるじゃろ」
「……あっ……猫が」
「あ~! さっきの三毛が描かれてる~! ちっちゃく~!」
「うん。彩りもちょっと違っていいじゃろ」
「石垣を引っ掻いてるのか。ホントにちっちゃく描かれてるけど」
「先生! この絵、タイトル何て言うんですか?」
「ねこ」
「……えっ?」
「ねこじゃよ。『ねこ』」
「……ええ?」
「どう見ても猫より城の風景がメインのはずなんだけど……猫もなんかテキトーに描いただけって感じだし」
「な、長く絵を描き続けてる先生みたいな人の考えることって、わかんないね……真人くん」
「うん……普通、風景のタイトルなんじゃ……こんなに大きく丁寧に描いてるのに……」
「さて、茶でも飲もうかのお~……♪ふんふふんふんふ~ん……」
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