Another one past

雄大な自然

Another one past

回収された戦闘記録より


こちら、ヴィンド・マカリスター伍長だ。

現在、自分は宇宙戦闘服で漂流中。

クソ虫どもに推進器を破壊されて動けなくなった。

クソッタレ!

生命維持装置はかろうじて生きているが、もって10分ってとこだろう。

まあ、救助が来る頃には俺は干からびてるだろうよ。

これを聴いてる連中には気の毒だが、ミイラを見せる代わりに良いもんを聴かせてやる

最近の俺のお気に入りのナンバーさ。


数分に渡り、ノイズ混じりの楽曲が流れる。


クソッタレ!

時間切れだ?

空気が漏れてやがる!

クソコンピュータが!

自己診断までイカれてやがったか!

おい、次の俺に伝えろ!

ハーランのヤツに賭けの踏み倒しは許さないってな!

今回の俺の撃墜数スコアは……


データエラーにより、映像、音声共に断絶する。


「で、これを俺に聞かせてどうしろって言うんです?」

「すまないね、マカリスター君。通常なら複製クローニング後に、前身の最期の状況を知らせることは本人の意志によるんだ」

「なら管理官、俺はそんなこと頼んじゃいませんが」

「これは前に死んだ君の意志だよ。不快かもしれないが、これも規則でね」


そりゃご丁寧に、と言いかけて、俺は黙った。

3週間も記憶がなきゃ、複製クローニング前の死んだ自分が何を考えてたのかなんてわかりゃしねえ。

装甲服の中で窒息する自分なんてクソ面白くもねえもんを見せられて、俺の五分程度の「呼び出し」は終わった。


退出するときに、管理官は餞別がわりに音源データを寄越した。

前の自分が最近気に入ってた曲らしい。死亡記録のはノイズだらけで全く聞き取れなかった。こいつはノイズなしのオリジナルだ。

前にデータ取りした時の俺の記憶にはない曲だった。

試しに聴いてみたが、大して面白くもない。

この3週間で俺に何があったんだか。


まあ、ヤツはヤツ。俺は俺だ。

記録から復元されたからといって、前と全く同じとはいかないらしいからな。

気にしても仕方ねえ。


そういえば、前の俺はハーランと何か賭けをしていたらしい。これも記録後の話か。心当たりはねえ。

戦闘絡みで撃墜数スコア争いでもしてたのか。

どうせ大したことじゃないだろうが、わざわざ俺に言伝まで残していったんだ。

せめてその願いくらいは叶えてやろうか。

だが、ハーランのやつが素直に従うとは思えんね。

俺には何を賭けたのかの記憶はないんだ。

シラを切るのは間違いない。


さあて、どう話をつけるかね?

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