彼女への告白

仲仁へび(旧:離久)

01



 これが終わったらもう試験勉強だ。

 中学二年生最後の期末テストの順位で、俺の学力で入れる高校を考えなければならないから、力を入れていかなければならない。


 だが、そんな状況の俺には心残りがあった。


 それは今夢中になっている彼女への告白だった。


 気になって気になって、正直勉強どころではない。


 駄目だった時の事を考えると、気分が沈まざるを得ないが、それでも俺は告白しようと思う。


 何事もリスクを負わねば、メリットは得られないのだ。


 だから、背中越しに見守ってくれているマイフレンドよ。

 ここで止めてくれるなよ。


 告白の成功を左右するのは、話を切り出す前のラスト五分間に交わされる会話だ。

 告白前の行動で、わずかながら成功率が変動することがあると、ネットに書いてあった。


 だから、そこで彼女の印象を、確実に上げておきたい。


 俺は、顔を合わせた彼女に向けて、無数の可能性の中から適切な言葉を選び取って、怒涛の勢いで語りかけていく。


 前もってマイフレンドからもらった助言を参考にしながらだから百パーセント俺の言葉とは言いにくいが、この際細かい事はどうだっていいのだ。

 時間がないのだから。


 ――ずっと前から気になってたんだ。


 ――お前のそういうところ、いいなって思ってた。


 ――やっぱり言わなきゃ分かんないかな。


 ――俺はいつでも君の事だけを考えてたんだけど。


 残り十秒。

 今だ、畳みかけろ!


 ――好きだ。俺と付き合ってくれ。


「ごめんさい」


 ……。


「ぐっはぁ!」


 フラれた。

 事態の推移を見守っていたマイフレンドが、うずくまっている俺に同情する様に声をかけてくる。


 残念だったな?

 うるせぇ、ちくしょう。

 試験前の貴重な時間で、最期のチャンスだったんだぞ。

  

 一世一代の大舞台に臨む気持ちで挑んだってのに、あんまりだ。


 涙声で俺がそう愚痴を言えば、マイフレンドはどこまでも現実的な声音で次の行動について話し始めた。


「ゲームの時間はもう終わりだ。これで心残りは済んだだろ? さっさと勉強に戻れよ」


 くそう。他人事だと思って。


 だが試験勉強中に気を取られない為、ギャルゲーをやるのは一時間だけとあらかじめ決めていた為、仕方がない。

 

 勉強するまえに急いでキリのいいところ、ヒロインに告白するところまで行こうと思ったのに、まさか振られる事になるとは……。


 失恋のショックを引きずりながら俺は、テレビ画面の前から移動して、自室の机へと着席したのだった。


 まあ、仕方ない。

 今回駄目だったのは、俺のせいじゃない。


 マイフレンドの助言が良くなかったせいだ。

 繊細な心の機微と言う門を理解していなかった、やつが全部悪いに決まっている。

 俺はそう思う事にする。した。


 ノートや教科書を机の上で広げながら、俺は部屋の中にいるマイフレンドへと声をかける。


「あーあ、お前のせいで攻略失敗だ。次はもっとまともな助言くれよな」

「それは無理だな、だって俺は人間じゃないし」


 机の上に置かれたスマホから帰って来たのは、そんなつれない返答。

 まあ、人工知能であるお前に、告白時で……しかも女性の心の機微を察しろっていう方が無理だったかもしれないな。


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彼女への告白 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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