新人賞応募終焉宣言――長い旅でした

愚生は、おそらく、今後、小説新人賞への応募をあきらめます。


今回の、新潮新人賞での一次落ちにより、極度の鬱状態になり、もう、これ以上、こんな氣氛になるのは厭だ、と諦念したからです。


一日中、『死』についてしか考えられなくなり、このままでは、『新人賞に殺されてしまう』とおもったのです。


(愚生の場合、自分自身で認知療法をこころみて、無事に恢復出来たので、この『鬱抜け』の方法も、余裕があれば、嚮後、此方で発表させて戴きたいと存じます)


いまのところは、現在推敲中の新作数編を、数年後に応募する予定を残すだけで、爾後の予定はなくしました。


――


そもそも、愚生の小説家への道程は、17歳で濫觴しました。


高校を中退して中卒となり、自室に蟄居して、TVを観るだけの生活のなかで、安部公房の『箱男』に出逢い、自分も文學を書きたくなり、執筆をはじめました。


最初の作品は、150枚程度の幻想小説で、家族にだけ読んでもらいました(いまでもファイルは残っていますが、はずかしいので、発表する気持ちはありません)。


爾後、角川書店様のNEXT賞という新人賞に、700枚くらいの自信作を応募したところ、評価シートで、最低レベルの『E+』という結果を戴き、絶望した愚生は、一旦、小説の道程を諦念しました。


それから数年後、矢張り、小説が書きたくて、「無情百撰」という泉鏡花風の中編を執筆し、どうせならとおもい、純文學最高峰の、文學界新人賞に応募したところ、奇蹟的に予選通過し、雑誌に名前が載りました。


爾来、愚生は、プロデビューを目指して、24年間、30作以上、原稿用紙8000枚以上の小説を執筆し、応募しつづけて、幾度か予選通過し、一度だけですが、短編のSFコンテストで最終候補に残りました。


――


斯様に髣髴してみると、涙がながれてくるくらいに、綺羅綺羅した人生でした。


愚生は、充分に頑張ったとおもいます。


前回は、アマチュア諸賢の天才のみなさまに、『あきらめないでください』と揮毫しましたが、慚愧すべきことに、かくいう愚生自身は此処で、あきらめさせていただきます。


勝手に小説家を目指した愚生を応援し、ささえてきてくださった家族や友人たちには、まことに申し訳ございません。


もしかしたら、ネット上で愚生を識ったかたのなかにも、愚生のプロデビューを応援してくださっているかたがたもいらっしゃったかもしれませんが、愚生は、自分自身との約束さえ護れませんでした。


――


といえども、愚生は愚作のかずかずが、決して駄作だとは考覈しておらず、それどころか、愚生は、すでに世界文學レベルの小説を、幾編もものにしてきたという矜恃があります。


これからも、愚生は、だれにも読まれなくても、自分で傑作とおもえる作品が出来たら、KDPやカクヨムなど、ネット上で発表してゆきたいとおもっています。


文豪丸山健二氏の仰有るように、そうやって、百年後、二百年後の読者を想定するのが『真の文學』のありかただと、愚生もおもうようになったからです。


(といえども、愚生が斃仆して、メールアドレスが解約されて、それぞれのアカウントがなくなったら、後世にも残らないかもしれませんが)


ともかく、長い旅でした。


とても愉しく、沢山の仲間が出来て、ときに感動し、ときに絶望する、長い旅でした。


愚生はこれから、すこし目標地点を変えて、また、新しい旅に出ようとおもいます。


――


斯様に未熟な愚生を見守ってくださった、アマチュア作家諸賢、読み専のかたがた、いっそのこと、そのほか全人類に、誠に有難うございました、と申し上げたいです。


最後に、文豪丸山健二氏の『真文学の夜明け』から、二箇所、引用して擱筆したいとおもいます。


『要するに名の通った文芸誌で募集している新人賞や実質はともあれ世間に知られていることだけは間違いない文学賞なんぞを当面の目標に掲げるのは大きな誤りで、仮に応募してみたところであなたがめざしよしとする質の高い本物の文学のレベルに達した作品は、間違いなく百パーセントの確率で予選の段階でふるい落とされてしまう。』


『もしあなたがこれまで誰も読んだことがないまさに革新的な言語芸術の極致とも言える作品を本気でめざし文学を究極の域へと推し進めようと真剣に考えているのならば大手出版社の文芸誌の新人賞なんぞに間違っても応募してはならず、あまりに程度が低すぎるあんな子どもだましの作品がずらりと掲載されている質を問題にする以前のレベルでしかない文芸誌とやらの〈作文ごっこ〉なんぞを文学の水準などと間違っても思いこんではならない。』

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