天才宣言――貴方は天才だ――文藝賞、すばる文学賞、新潮新人賞、群像新人文学賞、文學界新人賞に落選したかたがたへ

今年の新潮新人賞も、愚生は一次落ちであった。


正直なところ、悶絶躃地しそうなほどに苦痛なのだが、巷間には、もっと懊悩している応募者もいらっしゃるとおもうので、愚生も忍辱しなければならない。


愚生はそれでも、僥倖なことに、――そう、これは啻の『運』である――23年間のアマチュア作家人生のなかで、数回、予選通過したり、最終候補になったりしたことがあるので、まだ、慚愧に堪えられるが、世間には、30年間応募しつづけて、一度も一次通過していないという俊乂もいらっしゃるという。


然様なるかたがたの胸臆を斟酌するに、愚生は、『リア王』のように、心臓がはりさけそうな氣氛になる。


そもそもがノーベル賞レベルのアマチュア作家諸賢が、数ヶ月をついやして翰墨し、斧鉞に斧鉞をかさね、死ぬおもいで完成させた傑作群が、『はい、一次落ち』とされる疼痛は、愚生が想像しただけでも、狂癲したリア王を見守る道化師のように、「わが胸よ張り裂けてしまえ」といいたくなるものである。


――


そもそも、不思議なのだが、出版社のかたがたは、一回の新人賞で、どれだけ自殺者がでているか、想像したことはないのだろうか。


尠くとも、数十人規模の鬱病患者を生んでいるはずだ。


愚生がおもうに、資本主義に洗脳された現代社会で、仕事というものはいずれも、尠かれ、人間を不幸にするものだと考覈するのだが、小説の新人賞というものは、その典型ともいえると細嚼される。


――


曩時、美輪明宏女史だったかが、『プロはアマチュアの十週遅れ』というようなことを仰有っていたと記憶しているが、碌に日本語も読めないような『プロ』作家たちの、『現代文學の最高峰』として品隲された『傑作群』が臚列された文藝誌の誌面を瀏覧するに、アマチュア作家諸賢のみならず、一般読者の感想も已己巳己のものではないか。


――


文學界新人賞受賞まえに、絲山秋子女史は、躬自らの公式サイトで、『天才宣言』というものをなしたと記憶しているが、愚生もそれを敷衍して、此処に『天才宣言』を標榜したい。


畢竟、愚生のみならず、『アマチュア作家諸賢は全員天才だ』ということだ。


貴方は頑張った。


貴方には天稟の才能がある。


貴方の作品は充分に受賞に値する。


貴方がた天才の作品は、百年後にも残る価値がある。


それでも『一次落ち』するのが、現代日本の文壇の現実なのである。


――


曩時、『人生でなにも成し遂げたくない』と仰有り、ノーベル文學賞候補を辞退したシオランは、『成功以外に人間を完全にダメにしてしまうものはない。名声は人間に降りかかる最悪の呪詛である』『勝利と成功によって人は舞い上がり自分が何たるかを忘れてしまう。自分をひとかどの者だとと思い込み自分について幻想を膨らませる』『成功者は薄っぺらで敗北者は複雑である』『魂の水準は挫折に比例する』というように揮毫されていた。


皮肉なことだが、愚生の実感として、新人賞で一次落ちするごとに、愚作の研鑽は愈愈進捗し、最早、『愚作は世界文學レベルだ』と颺言できるほどに焱燚たるところを確信している。


現代の超文豪たる丸山健二氏は『真の文學が投稿されたら、出版社が理解できないので、百%落選する』というように仰有っていた彇である。


畢竟、おおくのアマチュア作家諸賢は、『蹉跌をくりかえしたことにより、作品が研鑽されすぎ』て、『新人賞の一次選考も通らないほどにレベルがあがってしまっている』のである。


本統に、各文學賞が真摯なる選考をなさっているのならば、何故、トルストイやカフカやジョイスやプルーストやナボコフやボルヘスやブランショや――がノーベル文學賞を受賞できなかったのか。


――


たびたび申し上げているが、愚生は、いつでも苦悩するアマチュア作家諸賢の味方である。


貴方がたのような天才たちとおなじ時代に生まれて、愚生は本統にうれしい。


ゆえに、愚生は貴方がたに、まだ諦念してほしくない。


貴方がたは間違っていないのだから、貴方がたの作風を豹変させる必要はない。


寧ろ、時代のほうが変貌し、我我、貴方がたの傑作が理解される時宜に逢着することを、啻、啻、巍峨と聳立して待つのだ。


軈て、本統の傑作が甄別される時代が、かならず、到来する。


そのとき、貴方がた天才の諸賢と、いまとは豹変した文壇で邂逅できることを、微衷より冀求している。


それまで、どうか、貴方がたも文學をあきらめないでいてほしい。

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