第2話 『虻干様』

 真夜中の森の中、マグライトを点け歩く男女の集団がいる。


 着ている者や髪型、付けているアクセサリーで、ずいぶんと派手な印象を与える、二十代くらいの六・七人の若者たち。

 大声で騒ぎながら、飲酒しながら、暗い森の中を歩いて行く。


「おいおい、ホントにこっちかよ、道なんてねーじゃん」

「人が来ねーっつってたろがよ、着いたら写メ撮るべ」

「やだ、虫多いよ、早く帰ろうよ」

「うっせ、早く歩けボケ」

 ガヤガヤとやかましい。


 少し開けた場所に出る、眼前には鳥居、そして。


「……おぉ、着いてみてーだぜ……」


 四方に鳥居が建てられているその場所には、高さは5mほど太さは二抱えはあろう柱のようなものが建てられていた、その柱は何故か紙のようなもの(おそらくお札の類であろう)が無数に張り付けられていて、その柱がどんな材質なのかわからないほどだ。

 しかも、幾重にもしめ縄で縛られ紙垂しでが揺れている、それだけで異様なのはわかりそうなものなのだが。


「おー、こりゃなんだ? でっけぇチ〇コか? ぎゃはは」

「バッカじゃないの、あははははは」

「おうおう、写メ撮れ! 写メ!」

「ウェーーイ!!」

 皆、思い思いのポーズでガラの悪い連中が、スマホの画面に収まる。


 画像に収めた女が、妙な顔をして画面を見ている。

「おう、どうよ?」

 男の一人が覗き込むように、声をかける。

「ちょっと見てよ、これ」

 画面には、バカ面をして恰好を付けている仲間たち……、だが、何か黒い霧のようなものが全員に絡みついている様にも見える。


「なんだ? こりゃ?」

「心霊写真じゃないの? 帰ろうよぉ」

「やだぁ、心霊写真だってー、うけるー」

「バーカ、こんなもん怖かねーよ」


 男の一人が、柱に巻かれているしめ縄に手をかけ引っ張り出す。

「おっ! おれもおれも!」

 今度は、数人でしめ縄を引きちぎり、貼ってあったお札を剥がし破り始め、柱はその下の鈍い黒色の石の肌を見せ始めた。


「おりゃ!!」

 一人が、勢いをつけ柱に蹴りを入れた。

 まぁ、格好つけの軽い気持ちだったのであろうが、ゴスン、と鈍い音をたてて、あっけなく柱は倒れてしまった。

「おいおい、マジかよー倒れちまったぜ」

「オレつえー! ぎゃははは」


 少し考えればわかることだ、今まで何年、何十年、何百年、立っていた巨大なものが、蹴りの一発で倒れるほど

 この泥酔し調子に乗った連中は、まるで、倒れた様なその様子がわかるはずがない。


 柱が倒れた後の、ぽっかりと空いた穴。

 その闇夜より暗い穴の奥底に光るものが見える、黄金色に輝くそれは、ゆっくりと明滅を繰り返し、少しずつ大きくなっているのだが……。

「おい、何か光ってんぜ」

「なによ? お宝?」

「おぉー、隠し財宝ってやつー? いただいちゃうー?」


 一人が、イソイソワクワクといった様子で、穴を覗きこもうと体を屈めた時。


 穴の奥から、低い地響きと土砂と土煙を巻き上げ、が天に向って伸びあがって来た。


 月明かりに、穴から出てきたなが姿を現した、その姿は巨大な黒い剛毛を生やした蛇の様で、異様なのはムカデのように体の側面に無数の手足が生えている。


 は、あっと言う間に愚かな犠牲者たちを、その長い体で取り囲むと、蛇が鎌首を持ち上げるように頭をもたげた。


 大型車ほどもある剛毛が生えた大きなその顔は、気味の悪い事に猿と言うより人に似ていた、金色に輝く目は狂気と悪意に輝き、大きな口には穴を覗きに行った男がくわえられている。

 まだ生きているのだろう、手足をばたつかせて必死でもがいている。


 ボキュッ


 肉と骨が噛み砕かれる音が響く、血がその大きな口を濡らし、噛み砕かれ咀嚼され肉の塊として飲み込まれていく。

 ボタボタと吹き出した血と臓物が地面を赤黒く濡らし、周囲に鉄錆びに似た生臭い臭いを辺りに撒き散らされる。


 ここにきて、愚かな犠牲者たちは、悲鳴を、泣き声を上げ、叫び、逃げ出そうと動き出すが、その巨体は逃げ出すことを許さない。


 一人、また一人と順番に、その大きな口で肉と骨を噛み砕かれ、咀嚼する音が響く中、愚かで哀れな犠牲者たちは、この世から姿を消していった。


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