ボクと怪異と夏休み

大福がちゃ丸。

第1話 ボクの夏休み

 ジージーとセミが鳴いている。

 空が抜けるように青い、太陽が眩しい熱い。


 家の縁側に座り、三時のオヤツに婆ちゃんが切ってくれたスイカを食べている。

 モグモグと食べて、スイカの種をプっと庭に噴き出す。


 半ズボンをはいて、Tシャツを着ているけど、やっぱ暑い、夏だもんね。

「スイカうまいなー」

 夏休み入って遊びまわってるのは、ボクだけじゃないだろう……たぶん。

 まだ始まったばかりだしね。

 あ、一応、観察日記とかは書いてるよ。


 軽トラックを運転して、爺ちゃんが畑仕事から帰ってきた、ガタガタと音を立てて庭に入ってくる、野菜が入った籠で荷台はいっぱいだ。

「爺ちゃん、おかえり」

 ボクが言うと。

「おう、ただいま」

 と爺ちゃんが言う、窓から顔を出して手を振っている、てっぺん禿げで白髪頭のボクの爺ちゃんだ。


 畑で取った野菜を運び終わると、ボクの隣に来て一緒にスイカを食べだした。

 片付けはいいの? と聞いたら。

「おう、一休みだ! ミツルがクロの散歩に行ってる間に済ますわい」

 っと言ってガハガハ笑っている。


 ミツルはボクの名前、クロは庭の隅の小屋でグデッとしてる黒い犬だ。

 グデッと寝ころびながら、自分の名前が出てきたので上目遣いで、こっちを見ている。


 ボクは、麦わら帽子をかぶり、クロを連れて爺ちゃんの側に行く。

「ん、じゃあ行ってくる」

「ワフッ」

 クロも散歩だと元気になる、尻尾を振ってご機嫌だ。


 いつもの散歩コース、家を出て神社の前を通って、大きな川の土手道を歩いて橋が見えたら帰り。

 セミの鳴き声を聞きながら、歩いて行くと神社の大きな階段が見えてくる、結構大きな神社で由緒があるんだそうだ。

 神社は少し高い小山の上に立っていて、周りの木のせいか風が涼しい。

 ボクは、足を止めて大きくて長い階段を見上げる。

 ここの前を通ると、いつも爺ちゃんが話していたことを思い出す。


 昔、爺ちゃんがボクくらいの頃、この神社で死にそうな子犬を拾ったそうだ。

 くるくる巻き毛の白い小さな犬、『コロ』と名前を付けて爺ちゃんは可愛がった。

 とても頭のいい不思議な子で、何処かにいってしまって諦めたものをくわえて来たり、こっちの言う事がわかるみたいだったらしい。

 そんなコロとは家族みたいな感じだったそうだ。


 そんなコロは、いつの間にか姿を消したんだって。

「不細工な顔してたが、可愛い奴じゃった、もう一度、会いたかった」

 この話をするとき、寂しそうに爺ちゃんはいつもそう言うんだ。


 そんなことを思い出して、立ち止まっていたせいか。

「ワフッ」

 クロが、早くいこうと鳴き声を上げた。

「ごめんごめん、それじゃ行こうかクロ」

 ボクはまたクロと一緒に歩き出す。


 川べりの土手道を歩いて行くと、川岸でキャンプをしてる人たちが見えた。

 大きなテントを立てて、バーベキューの真っ最中だ。

 音楽をガンガンかけてビール飲んでる、何か柄が悪い人たちだな……、ここキャンプとかバーベキューとか禁止だったはずだけど……。

 あれ? 誰だろう? 子供と話してる、あ、こっち来た。


「おーい、ミっちゃん」

 クラスメイトの健太と俊だ、二人とも手にはコーラを持っている、もらったのかな? コーラ持って走ったら……。


「ケンちゃん、シュンちゃん、どうしたの? 何かされた?」

 少し心配になり、ボクは二人にたずねた。

「とりあえず、少しここから離れよう」

 そう言って、二人は少し速足で歩いて行く、ボクとクロも後に付いていく。


 川岸の人たちが見えなくなるまで歩くと、健太は話し始めた。

「いやぁ、川岸で遊んでたらさ、あの人たちに『肝試し出来る所ないか?』って聞かれてさ」

「怖かったねー、お酒飲んでベロンベロンだし、何か変な匂いしたし」

「バカ、ありゃ香水だよ、臭かったけどさー」

 健太と俊は鼻をつまんでしかめつらして見せている、話が脱線しそうなので、ボクは口を挟んだ。


「そんでどうしたのさ?」

「お? あー、そんでさ、オレはとぼけようとしたんだけど、シュンの奴が『虻干あぶほす様』の事言っちゃったんだよ……」

「えー、ぼくのせいなの?」

 俊はちょっと不満気だけど、健太はあきれたように。

「ばっかだなー、あそこにはオレなんかも近寄るなって言われてんじゃん」


虻干あぶほす様』 

 町のはずれにある森の奥に立ってる、何時からあるかわからないくらい古い石碑のようなモノ。

 毎年、ひそやかに神主さんと大人たちが何かしてる(出てこないようにお祈りしてるって言っていた)。

 昔々、神様が悪いものを閉じ込めたって話も、閉じ込められたのが悪い神様だって話も聞いたなぁ。

 近づくと祟られるとか脅かされているから、このあたりの人は近づかない場所だ。


「いいところに来てくれたよ、友達が来たからって言って逃げてきたんだから」

 嫌そうな顔をして、健太が言う、俊も「うんうん」とうなずいている。

「とりあえず、ミっちゃん内緒な! シュンもな!」

「ん、わかった黙っとく、てか、ボク関係ないけどね」

「わかってるって」


 三人とも、内緒と言うことで確認をした、まぁしかたないね。

 健太と俊と別れて家まで歩いて行く、少し嫌な予感がした。

「キュゥン」

 ボクの顔を見上げてクロも少し心配そうだ。


 ボクは少し速足になっていた。


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