その9


 大きな悲しみの果てに広がっていたのは、銀に煙る湖だった。


 ハムコの実家は、都会から離れている。

 お葬式の帰り道、寝不足のドライバーのため、休憩に寄った。普段は観光客で溢れている湖なのだが、人といえば、喪服に身を包んだ私たちだけ。今日はなんだか天気が悪いせいだろう。


 カルデラ湖で中央にいくつかの島をもつ。

 シカが住む大きな島すらあるというのに、霧で見ることは出来ない。

 風はひとつもなく、観光船も動いていず、湖面を揺らすものは何もない。


 私は水辺まで降りていった。


 不思議なものだ。私は笑った。

 この湖は何度も来ているけれど、こんな幻想的で美しく見えるのは初めてだ。


 まるで自分の心象を映し出しているようではないか?


 三途の川……向こうは黄泉の世界。

 ハムコが逝ってしまった世界。


 こちら側に立っているのは、なんて虚しいことだろう? 


 私は鏡のような水面に石を投げ、まるで時間が止まってしまったような湖面に波紋を広げてみる。


 さようなら、ハムコ……そして安らかに……。



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