その4

      

 街中の交差点で突風が吹いた。


「キャッ!」


 一緒に歩いていたハムコが悲鳴をあげた。

 コンタクトレンズにしたばかりのハムコをかばうように、私は彼女を抱きしめた。

 埃から風から、彼女を守りたかった。


「あなたはいつも私を守ってくれるんだね」


 照れもせずに、ハムコはいう。目がコロコロと笑っている。

 そう、私はいつだって王子さま気取りだった。

 私の友情は、友情にしては盲目的で、独占欲が強かった。

 ハムコは私の中では特別な存在。

 そしてハムコにとっても私が特別でなければならなかった。



 ところが、突然二人の間に、楔が打ちこまれる事態が起きる。

 おじさんともいえる年上の恋人が、ハムコにできてしまったのだ。


「……別にね、好きっていうわけでもない気もするんだよね……」


 ハムコの言葉が、私をますます苛立たせる。


「好きでなければ、わかれればいいじゃない!」


 年上の彼は金持ちだ。

 だから付き合うとでもいうのか!

 いっそ好きだと、彼を死ぬほど愛していると言ってくれたほうが、私はどんなに救われることか……。


「そんなに怒らないで……。だって、一緒にいると楽なんだもん」


 私は? 私は疲れるとでもいうのか?

 さびしがりやで、あまえっ子……。

 一人でいるくらいなら、媚てでも誰かといたいハムコ。


 ここと思えば真直ぐに、人の気持ちなどお構いなしに走ってしまう私。

 これが限界だったのかもしれない。ハムコといれば、私は傷つく。


「あなたと私は生き方も考え方も違う。さようなら」


 そう言って絶交できればどんなに楽だっただろう?

 でも、できない。ハムコは特別だった。

 彼女の甘ったれた声が、私を呼ぶのが好きだった。

 コロコロと笑う瞳が、いつも私を魅了していた。


 苦痛だ。


 私は特別でも何でもなかった。

 ハムコにとっては都合のいい友人の一人。

 別に好きかどうかわからない恋人よりも、下方に位置する人間。

 もうそれだけで我慢がならなかった。



 サークルの会長になったのは、タイミングがよかった。

 私はサークルに燃えていた。まるで叶わない恋をすりかえるかのように……。

 今更、後悔しても仕方がなかった。

 三日前、私をかなり待っていたであろうハムコに、最後に告げた言葉。


「先に帰っていて」


 この言葉は、額面よりも冷たい気持ちがこめられていた。


 なぜ、素直になれなかったのだろう?

 ハムコが望むなら、何でもできたはずなのに……。

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