その5
劇症肝炎。
これがハムコの病名だった。
「もう、血液をきれいにする力もありません。鮮血が必要です」
大量の輸血をする。しかも新鮮な血……。
何もできずウロウロしていた私は、真っ先に血を採ってもらうことにした。
全部やってもいい! そんな気持ちだった。
しかし現実は、一滴の血さえあげることができなかった。
「だめ! あなた、血管が細すぎて針が入らない!」
私は看護婦さんに見捨てられてしまったのだ。
「いや! もう一度、試してください! 今度は……今度はきっと!」
「無理よ! あなたは」
私はさらに詰め寄った。
「あなたからは、血はとれません!」
看護婦の言葉に、私は目の前が揺れる思いだった。違う……本当に泣き出していた。
「嫌だ! 血を、血をハムコにあげるんだ! 私は……私はだめなの? ねえ、私は」
私は何もできないのか?
ハムコに冷たい言葉をあげることしか。
冷たい態度に、ハムコがすがる目をして私を見ている。
その目は、いきなり死者の目に変わる……。
だめだ!
死んじゃだめ!
もう一度、意識を取り戻して……。
あの言葉をやりなおさせて!
「うん、一緒に帰ろう!」
途中でケーキも食べに行こう。二個づつ食べよう。
バーゲンセールも見に行こう……。
「大丈夫? しっかりして」
「何が? 私はしっかりしてるわよ!」
興奮しきった私の肩を抱きながら、献血を終えたガチャコたちが、私をその場から引き離した。
「何か……出きることをやろうよ」
「このままじゃ、血が足りない。学校に張り紙をして、献血を募ろう!」
「……千羽鶴折るっていうのは?」
何人か集まった友人の中で、鶴を折ることを提案したのは、ガチャコの彼だった。
ハムコの彼には、敵対心を燃やし続けた私だが、同じ親友の彼でありながら、このガチャ彼には、何の気持ちも抱くことはなかった。むしろ、友人としてそれなりの付き合いがあった。
ガチャコは、何でも相談できる友人だった。
彼女と出会えたことは、私の学生生活の中でとても重要であったが、彼女を一人占めしたい気持ちはない。ハムコとは感情のあり方がまったく違っていた。
それが、ガチャ彼を難なく友人として受け入れられた要因だろう。
しかしこの後、折鶴をめぐって、彼と私は大変気まずい関係になってしまうことになる。
私たちは、学校に戻ると総務課と掛け合い、速攻で献血募集のポスターを書き上げ、張り出した。
学生たちが、一人二人と集まってきた。血は、どんどん集められた。
多くの学生の善意の献血で、血は充分なほど集まった……というか。残念ながら、最後は無駄になってしまったのだが……。
しかし、大学病院にはせ参じた学生の数に、ハムコのお母さんが涙したことはまぎれもない事実だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます