第7話 衝撃

梅雨特有のけだるい蒸し暑さの中、僕は延々と怜の話を聞いていた。


「僕の見解では、中学生のうちに@※?▽・・」


もはや声が頭に入ってこない。まずい。意識が。。

と思ったその時!


「よし!4時45分!詩!行くよ!」


問答無用で僕の腕をつかみ、さっきとは裏腹に無口になり、速足で歩きだした。

僕の前を怜の影が行き、さらにその前を怜が行く。。。。。

冬であればもう日はずいぶん傾く時間なのに、夏至前のこの時期、昼間のように明るく、その分また暑い。


「着いたよ。」


10分くらい歩いただろうか。ついた先は、川沿いの小さな公園だった。


「なぁ怜?突然どうしたんだ?」


「・・・。見てればわかるよ。」


ギター、ドラム、キーボード。

バンド?

何が始まるというのか。



カッカッカッカッというドラムのスティックを打つ音がした。

リズム感の良い、それでいて激しくなく、身を任せられるようなメロディーが流れた。

驚嘆で声を失った。こんなかっこよくて素晴らしい曲に出会わないまま、もう17年も生きようとしていたのだ。僕はこの曲の虜になった。


「ジャミロクワイで、バーチャルインサニティでした。」


名前が覚えられない自分が悔しい。

この曲の名前と、聞いた時の衝撃を忘れないまま、家に帰りたい。


「怜、この曲はなんて?」


「Jamiroquaiの、Virtual Insanity」


「へぇ~。。。。。。」


「帰ろう。」


帰り道、怜はいつになく小さな声で語り始めた。3か月前、たまたまあのバンドに出会ったこと。Virtual Insanityのコピーに惚れ込んだこと。いつか、友達を連れてきたかったが、理解を得られないと思っていたこと。そして今日、僕を連れてきたこと。


「怜。。。僕、この曲大好きだよ。永遠に聞いていたいくらい好きだよ。僕は、怜に負けないくらい、この曲に一聞き惚れしちゃったよ。」


「そうか。――――――――――――。 今日は、僕が詩の家まで送るよ。」


それからは、僕らは二人とも、エンストして惰性で動いている車みたいに、静かに歩いた。


「じゃあ。」


「なぁ、詩?僕と一緒に、、バンド、やらないか?」

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