第3話 名無しの神様

その光景を俺は腰を抜かせながらただ見ていることしか出来ない、世界がゆっくりと滅亡していっているというのに、足腰が恐怖という感情により震えて立ち上がる事が出来ない。


しかし幸いにも頭上にはたまたま雲はなく、血の雨に降られ蝕まれる事は無かったことが、唯一の救いであった。


そして未だに震えが止まらない俺に、桜色の髪の少女はゆっくりと近寄り、そのまま俺を優しく胸の中にぎゅっと両手で包み込みながら、耳元で安心する声色で囁いた。



「大丈夫だよ、そんなに怯えなくたっていいんだよ

君の事は必ず僕が守ってあげるから」



桜色の髪の少女にそう言われると、何故だか自然と震えは止まり、落ち着きながら彼女に質問した。



「おい、お前って言うのもなんだし名前を教えてくれねーか? それと何でそんなに俺の事を守ろうとしてくれるんだよ、もしかして俺達ってどこかで会ったことがあるのか?」



「1回の会話に2つも質問してくるなんて強欲だねー

私の名前がそんなに知りたいのかい?

どうしよっかなぁ〜悩んじゃうなー♡」



そんな事を呑気に言っている桜色の髪の少女の頭を優しくポンっと叩いて言った。



「いいから早く教えろ!」



「って! 痛いな〜女の子に暴力は振るっちゃいけないって、ママに教わらなかったのかな?

悪い子だなぁ〜本当に……再教育が必要かな?

それに名前を教えろって言われても、僕に名前なんて無いよ? ただ君の事を守る為に、君と一緒に産まれてきた神様なんだから」



彼女からそう言われると、俺は頭を抱えながら溜息をついた。



「はぁ〜頭がパンクしちまうよさすがに……

まぁーお前が言うんなら俺は信じるぞ、流石にこの状況はまだ飲み込めないけどな」



「そりゃーそうだよ、この状況をすぐに飲み込んでいたら君の良心を疑ってしまうよ。

そうだ! 君に言われた通りお前ってずっと呼ばれるのは少し嫌だから、僕に名前をつけてよ」



「俺がか?」



「君以外にこの場所に誰がいるっていうのさ?」



「急に名前をつけろって言われても……なんか困るもんだな」



「本当に君は悩みやすいなー、サクッと決めちゃいなよほら〜10〜9〜8〜7〜6〜5〜4……」



桜色の髪の少女がカウントダウンを始め、俺は直感的に名前をつけた。


まるでずっとそう呼んでいたかのように、俺の口からは自然にその名前が出てきた。



あかり!今日からお前の名前は神代月かみしろあかりだ!」



すると彼女は名前をつけて貰えたことに喜んでいるのか、口角が緩んでおりとても幸せそうな顔をしているが、何かを懐かしむような悲しげな表情をしているようにも見えた。



「ありがとうね、太陽うずひ……勿論のことだけどこれから僕も君の事は名前で呼ぶからね?

愛し合おうじゃない、か!」



そう言いながらお気楽にキス顔で迫ってくるあかりの事を、俺は手で押し返しまだ答えてもらっていない質問に答えてもらう為に彼女に聞いた。



「っと、それより今のこの状況って本当にどうなってるんだ? 世界は本当に滅んじまうのか?」



「あぁ……このまま行けば必ず世界は滅びるよ、だけど君のように神に選ばれた人間は、その破滅を回避することができるし、上手くいけば世界だって救える!

後は太陽うずひが僕の事を選ぶだけだよ……君は僕の手を掴んでくれるかい?」



彼女はそう言いながら何故か震えていた。


だから俺も彼女にされた様に優しく彼女の手を掴み、そのまま引き寄せ笑顔で言った。



「もちろんだ!」



そう答えると俺と彼女は白い光に包まれ、その光は俺の左胸に、彼女の右胸に集まっていき、そのまま光がはじけてキラキラと俺と彼女の周りが輝いている。


とても幻想的な光景に思わず息を呑み、今この瞬間だけ世界が滅亡していっていることを、完全に忘れてしまっていた。


そして俺の左胸には太陽の刻印が刻まれ、彼女の右胸には月の刻印が刻まれている。


一体この刻印が何なのかはまだ分からないが、何故だか俺は懐かしい気持ちになっていたのだった。

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