第3話
「かんぱ〜い!!」
ぶつかった3つのグラスが、チリンと涼しげな音を立てる。
「くう〜、やっぱ一仕事終えた後のこいつは最高だね〜!」
私はグラスの中身を一気に飲み干すと、心からの歓声をあげる。
「まったく、ジュースごときで何言ってんだか」
そう言うと、アインもジョッキの中身をあおった。
「あれ〜?アインさん見た目お子様なのに大人のフリですか〜?」
「ああ?言ったなてめえ」
「そんなの飲まなくったって楽しいですもんね〜」
「ね〜」
私は、正面のアインの隣に座るリィルさんとうなづき合う。
「そんなん人それぞれだろ」
アインは浮かせていた腰を再び落ち着けると、ビールをすする。
私たちは、ギルドでパーティ結成の届け出をした後、近くの、街で1番の居酒屋ー酒場と言ったほうが近いだろうかーにやってきていた。
「本当に、今日はありがとうございなした。」
「いえいえこちらこそ、これからよろしくね〜」
手を取り合う私とリィルさんに、
「まあ、せいぜい足手まといにならなように早くレベルアップするんだな」
ニヤニヤとこちらを見るアイン。
「ふん、すぐに追い抜いてみせますから!」
「そいつぁたのもしいなぁ〜」
「あ〜!絶対バカにしてる!ね?リィルさん!?」
「ん〜?今のは『頑張って強くなれよ』って言うアインなりの激励の言葉だと思うな」
微笑むリィルさん。
「なっ!?お前何言って!?」
「あれあれ〜?照れ隠しなんてかわいいですね〜」
今度は私がニヤニヤする番。
ー仕返しだ!!
「お前なぁ…」
「何のことですかね〜?…そういえば!」
「何だ?」
「何だい?」
一斉に2人の視線が集まる。
「ずっと気になってたんですけど…リィルさんがアインを殴ったらどうなるんですか?」
「世界がほろびる。」
真顔で即答するアイン。
「へ?えええっ!?本当なんですかっ!?」
慌ててリィルさんの方を向くと。
「ああ、本当さ」
こっちも、さも深刻そうな顔でうなづいちゃいました。
「へ?…え?…」
「ミノタウロスの手が消滅したろ?あれが世界規模で起きる。」
隣でうんうんとうなづくリィルさん。
ーあれは…別に寝てるわけじゃないんだよね?…いや寝てるかも?…寝てない?あれ?寝てる?寝てな…
「…」
「…」
「…」
長れる沈黙。
2人の表情は真剣で、ついでに私の顔も(リィルさんの生死判定に)真剣で、
ーあれ?これってもしかして本当なの?じゃあ、私今世界を滅ぼすかもしれない人たちと一緒にいるってこと?え?ということは!………どう言うこと?ええとー
「ぷっ!」
「くくく…」
急に笑い出す2人。
「え!?何ですか!?私なんか変なこと言いました!?」
「いやいや、いい表情するから…はははは!」
腹を抱えて笑うリィルさん。
「いや、本当に、信じるなんて…」
「それにアインの演技も…普段はノリ悪いくせに急に真顔で『世界が滅びる』とかいいだすから…アインはかわいいなぁ!!」
アインの背中を叩くリィルさん。
「ん!?」
「お?」
「へ?」
固まる一同に、一瞬視界が真っ暗になたように感じてー
「あ、あれ?今世界が滅びたような気がするんだけど…」
「シラナイナーソンナコト」
「キノセイジャナイカナ?」
すっとぼけた方向を見る2人。
「いや、めっちゃ棒読みじゃないですか!?」
「まあ、矛盾が起きた瞬間の時間がカットされて結合されるわけだから、ある意味、その一瞬の世界は消滅してしまったとも言えるな。そもそも叩いて回避が勝つか命中が勝つかと言う二つの世界が存在していて、叩いた瞬間に一方に定まればもう一方は別の世界として分離してしまうからこっちの世界から見れば消滅していると言うこともできるのではないかと思うのだがー」
「いや難しそうなこと言って誤魔化そうとしても、結局さっき嘘つきましたよね?」
「ひゅーひゅるるるー☆」
そっぽを向いて口笛を吹くアインに、
「要するに、それぞれがどう感じるかじゃないかな?」
キリッ!!
「いやリィルさん意味不明です!?…んん〜!!」
私は頬を膨らませると、
「嘘、ついたんですかー!!」
私の叫びが居酒屋中に響きわった。
その後しばらく、店に行く毎にこそこそと話し声が聞こえてきたのは、言うまでもないだろう。
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