第2話 普通が1番!

荒野を抜け、王都エルディへと帰ってきた私たちは、街の中心をまっすぐにつらぬく大通りーではなく、ちょっとずれたところにある商店街を歩いていた。となりの大通りの行き着く先には、一際目を引く、巨大な建物ーギルドだ。


ギルドは冒険者協会の本部で、冒険者の管理や、依頼の受注などの仲介役をしている。

冒険者とは、世界中にてんでバラバラに生息している異種族が人間を攻撃してきたときに対抗したり、彼らの住処の中に人間の領地を開拓したりする人たちの総称。

人間以外の種族にはちゃんとした社会すら無いようで、それぞれが各々の本能のままに生きている。

ましてや本の中の世界によく出てくる魔王なんてのはこの世界にはいない。

言葉の通じない奴らをまとめるなんて、魔王軍はよっぽどのブラック企業になることだろう。

勇者(まあ、いるとしたら、私ですかね、はい。)が倒す前に魔王が過労死なんてとんだクソゲーだ。


さて、道の脇には様々な店屋が並び、店員が威勢のいい声で客たちを呼んでいる。

さすが、本通りにも近いだけあって、平日だというのにかなりの人だ。


「うう…人が多いなぁ……あっ!すみません!」


肩がぶつかってしまい、お互いに頭を下げ合う。


人々が皆、各々の方向に進もうとするので人の流れに押し戻されてしまい、ちょっと進むだけにも一苦労だ。

そんな中で。

目の前の小柄な男は、誰にぶつかるでもなくスイスイと進んで行く。

というより、向かってくる人々が彼を避けているようでーー


「ちょっ、ちょっと待ってよ!アイン!」


やっとの事で追いついた私は、その方に手を置くー


すかっ


ーかわされた!?


「おっとっと…」


バランスを崩してこけそうになったところをギリギリのところで踏ん張って…


「ぐへっ」


結局こけた。


「いてて…」

「おまえ…何やってんだ?」


手をついて体を起こした私の顔を覗き込んでいたのは、アインの呆れ顔。


ーああ〜!恥ずかしいい!どうせこいつ、また何にもないとこでこけてどうこうって馬鹿にしてくー


「何もないとこでこけるなんて才能だな」


ーほらきた!


「違いますよ!…だってアインが避けるから!」

「俺の回避力知ってんだから、忘れる方が悪いだろ」

「ぐっ…」


ー確かにそれもそうだけど…


「そんなことより!リィルさんを助けてあげてください!」

「ん?」


私の指差した先では、1人の青年が人々から 総タックルを食らっていた。

道行く人々が皆彼にぶつかって行くのだ。


「あっ!すみません!ほんとすみません!…ごめんなさい!」


謝りに謝る青年。


ーさすが命中100%…と言うか多分体が大きいからだと思うけど…


「…大変そうですね…」

「だな…」


これにはさすがのアインも同情の表情。


「ほら、回避の方がいいだろう?」


胸を張るアイン。


「たしかに…こういう時は便利ですね…」


認めるのはなんか悔しいけれど。


「ごめんなさい!ごめんなさい!」


青年は相変わらずで、


「ごめんなさい!ごめんなーああもうこっちくんじゃねぇ!打ち抜くぞ!?」


ーあ、キレた。


「やっぱり助けに行った方がいいんじゃ…?」

「んじゃ、待つとするか」


何事もなかったかのように、近くの屋台へと歩き出すアイン。


「ええっ!?助けてあげないんですかっ!?」

「助けに行ったとこで巻き込まれるだけだろ〜。…それに、これはあいつが自分で選んだ道なんだ…」


急に芝居掛かったキザな演技を始めるアイン。


「本心は?」

「めんどい。背が高いやつはみんな苦しめばいい。」


ーあ、やっぱ気にしてたのね。


そういうと今度こそ屋台の方へと歩いて行くアイン。


「ちょ、ちょと待ってよ!」

「おばちゃん、これひとーー」

「それ一つくれ!」

「あいよ!」


エプロン姿のおばちゃんがパンを客の男に渡す。

アインの頭ごしに。


「……」


複雑な表情のアイン。

それでも、声が小さかったからだと思い直したのか、


「おばちゃんこれをーー」

「こっちにも!」

「はいよ!」

「俺にもーー」

「こっちにもくれ!」

「はいよ!」

「……」


立つくすアインに、その手の中でお札がくしゃっと潰れる。


ー回避100%のアインに傷をつけるなんて…このおばちゃん最強!?


下を向いてこっちにもどってくるアイン。

私の目の前までやってくると立ち止まる。


「あ、あの…その…ど、ドンマイ?」


と、アインは顔を上げると、めちゃめちゃ引きつった笑みで、


「いや〜、回避100%ってのもこんなとこで弱点になるなんてー」

「背が低いからだと思いますけど?」

「…」

「…」


流れる沈黙。


「のおぉぉぉぉぉぉ〜〜〜っ!」


頭を抱えるアイン。


「おまっ、お前!何でそんなこと言うんだっ!?」

「だってそうじゃ無いですかぁ〜」


私は手を肩のとこに持ってくると、『やれやれ』と言うジェスチャーをしてーー


「いい加減にしないと、消すぞ?」

「わあ!御免なさいごめんなさい!謝るから!襟元掴まないでっ!…リィルさ〜ん!助けてーーあれ?」


さっきまで、何とかその頭だけが見えていたリィルの姿が見えない。


「リィルさんはどこに…いった…の…かな……いたっ!」


さっきよりかなり後方、人々の頭の群れから片手の平だけがのぞいている。


「あいん〜!ふぃおなちゃ〜ん!助けて〜!!」


リィルの叫びとともにひらひらと降られる手。

その手が、


「あっ?ちょっ、ちょっと!?」


ゆっくりと沈んで、


「ちょっ、ちょままっ!」


人混みの中に、


「あっ、だめだ…」


消えた。


「リィルさあぁぁぁぁぁん!!!」


ーやっぱり、普通のサイズがが1番だよね











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