仲間が一強すぎるので、私は平均を目指します。

さーにゃ

第1話 平均って最高じゃない?

※本文中の「ー」は一部、「ダッシュ」として用いさせていただいております。



荒野。

辺り一面の砂野原に、ところどころ思い出したように飛び出した巨岩がアクセントを添えている。

そんな辺り一面金色の中に小さな黒い点が一つーーいや、二つか。


尻餅をついた少女に、その前に立ちはだかるのは、斧を持ったミノタウロス。


ーあれ?これって私、結構ピンチなんじゃない?


牛もどきは、その身長ほどもある斧を楽々持ち上げると、


「〜っっ!!」


振り下ろされた斧を、地面を転がって避ける。

真横で土が跳ねる。

少女の心臓も跳ねる。

そのまま転がって距離を取ると立ち上がる。


ー剣は?…あった!でも遠いな…


しかもよりによって牛お化けを挟んだ向こう側。

まあ、拾ったところで“木の剣”がどこまで役に立つかはわからないが。

いや、確実に役に立ちませんね。


「もう!なんでこんな時にこんなレアモンスターに会っちゃうの!?」


そう、私ことフィオナ•V•ヴァージェスは、昨日晴れて冒険者養成学校を卒業したばかりの、ピッチピチの駆け出し剣士だ。

腕前は普通ー平均だ。

教えられた技は着々こなすが、かと言って突出した能力があるわけでもない。

身長も体重も、16歳女子の平均ぐらいで、ついでに言えば容姿も普通。

そのおかげか、学校では妬まれることもなく、ザ•普通の学生ライフを普通に送っていた。

なのに。

Sランクモンスターにばったり遭遇。

中位冒険者ぐらいなら泣いて譲ってくれと言いそうなラッキーシチュエーションだが、いかんせん私はひよっこだ。


「なんでこんなところで急に運が悪くなるのっ!?」



パーティを作るなんてもちろんのこと、入ろうにもレベルがまだまだ低い私を入れてくれるなんてところも当然ない。


ーつまり助けも来ないってことで。…あるとしたら、レアモンスターの発生を聞きつけた冒険者がやってくるぐらいか。


「私じゃなくて、金とレアアイテムのために、ね…」


そう呟きながら斧をかわす。


ーなんだろう、なんか避けるのが上手くなった気がする。


そう、私は経験値稼ぎのためにやってきたのだった。

さっきまでサソリのちょっと大き目のやつとかイグアナ太らせましたみたいなのをペチペチしながら、うえーいうえーいしてたのに。


「もしかして、うえーいうえーいしてたのが悪かったの!?…そんなわけなぐうえへっ!!」


変なことを考えていたら、砂に足を取られて転んでしまった。


ーうん、ぜったいこれ、うえーいうえーいのせい…だ…


「ヴォフッ」


顔を上げると血走ったミノタウロスの目と目があった。

逆光でその顔がさらにすごみを増している。


「い、いや、ちょっとまった!」


ズリズリと後ずさりする私。


ーうんうん、こうやって日傘が自動で動いてくれると便利でいいよね。これで荒野でも日焼け知らず!そして今なら価格がなななんと…ってしてる場合じゃなくてっ!


私の必死の抵抗をたった一歩で埋めると、ミノタウロスは斧を振りかぶってー


ーあ、これ、死んーー


「そやっ!!」

「ブフッ!?」

「しん、しん…あれ?死んでない?」


目を開くと飛び込んできたのは、またもや影。

でも今度はさっきより小さいようで。


「君、大丈夫かい?」

「あ、はい、大丈夫ーー後ろ!!」


心配そうにこちらを伺う少年。

その背後。

不意打ちにキレたのか、さっきよりも明らかに殺意の増したミノタウロスが跳躍。

頭上に両手で斧を掲げて。


「よけてっ!!」

「避ける?」


必死の私と対照的に、キョトンとした顔の少年。


ーなにこいつ!?ばっかじゃないの!?死にたいの!?


さっき助けてもらったくせに、ひどい言い草である。

それでも、


「ああ」


後ろを指している私の指(情けないことに震えていた)を追った彼も気付いたらしく、小さく嘆息すると、


「もちろん避けるさ」


少年の脳天めがけて振り下ろされる斧。


「こっちがね」


体重の乗った一撃が炸裂した。

ーー少年の真横の地面に。


「へ?ふええ?」


予想外のことに間抜けな声が出てしまい、慌てて口をふさぐ。


ー何今の!?何か見えない力が働いて急に斧の軌道がずれたような…


困惑しているのはミノタウロスの方も同じようで、


「ブフェッ!?ブフェフェッ!?」


キョロキョロと視線は斧と少年の間を行ったり来たり。


ーあれ、なんか可愛いかもーー


「グラアァァァッ!!」

「ひいっ!?」


どうやら外したことがプライドに触ってしまったらしい。

ひときわ大きい唸り声を上げると、再度斧を構える。


ー訂正!!お前なんかぜんっぜん可愛くないんだからーー


ギロリ


「わあ、ごめんなさいごめんなさい!かわいいです!めっちゃ可愛いです!」

「お前、何言ってんの?」


振り返った少年の顔は今度こそ呆れ顔。


「kろすのはこの人だけにして私は逃して…え?…いや、睨んでくるから…だからうしろ!!」

「ガアッ!!」


水平に降るわれた斧が砂を巻き上げながら少年を襲う。

今度こそ少年を完璧に捉えた斧が真っ二つに裂かれる。


「あ…ああ…真っ二つに…斧が…ああ……ああ?あれ?生きてる?斧が真っ二つ?なんで?」

「ほれ」

「ほえ?」


首をかしげる私の前に、ズイッと差し出されたのは、ライセンスカード。


「よく見てみろ」


おそらく彼のものなのだろう。

無愛想な写真は目の前の顔とよく似ている。

名前:アイン・A・ファスト

性別:男

年齢:18


「18歳なんですかっ!?…歳上!?見えなっ!!」

「そこじゃねえ!!」


ーそこも十分驚くとこだと思うんだけど…


そんなことを思いながら少しずつ視線を下げていく。

職業:剣士 Lv:100(+10)

HP:13(初期値)

攻撃力:10(初期値)

防御力:10(初期値)

魔力 : 0

速さ:7(初期値)

回避:100%

命中(会心):10%(初期値)


「なんだ、初期値ばっかりじゃないですか…」

「お前、ちゃんと見たか?」

「え?ちゃんと見まし…た…ええええ!?」


思わずアインの方を見ると、まさかまさかのドヤ顔で、


「回避100%ぉ!?」

「ま、そういうことだ。さっきのも、俺が避けようとしなかったから、現実が置き換えられた。…こんな風にね」


ケインが振り返ると同時に、その顔面に迫るミノタウロスの拳。

普通の人間であれば回避は不可能。

しかしその拳はアインの肌に触れることはできなかった。


「ギャオォォォォ!!」


悲鳴をあげるミノタウロス。

その手首から先がなくなっていた。


「うそ…」

「まあ、このまま俺が抱きつけばこいつの存在は消える。でもそれだと時間もかかるし、アイテムが手に入らない。だから…そろそろかな?」


アインがそう呟くと同時に。


ヒュッ


鋭い音とともに何かが私とアインの顔をかすめてミノタウロスを貫いた。

その眉間の、寸分違わぬ中心を。


「え…?」


急所を撃ち抜かれ砕け散った、ミノタウロスのものであった光の粒を浴びながら、私は立ち尽くす。


「な、なんで…」

「僕のせいかな?」

「うわああっ!?」


後ろからの声に驚いて振り向くと、そこに立っていたのは、アインと対照的に、すらっと背の高い少年。

優しげな顔には片眼鏡をつけている。

その背には矢筒を背負い、手には弓。


「おお!リィル!…お前また転移の術符使ったのか!?結構高いんだぞ!?」

「ちゃんと当たったか確認したくてね」

「そんなん必要ないだろ…ど真ん中だよ。…ほれ、節約しないとな」

「どうも」


リィルは、いつのまにかアイテムを漁っていたアインから矢(さっき使ったやつだろう)を受け取ると、矢筒にしまう。


「それに新顔がいたようなのでね。…初めまして。僕の名はリィル・S・アルティ。よろしく」


こっちに向き直ったリィルが微笑みながら手を差し出す。


「…初めまして!私はフィオナ•V•ヴァージェスです!よ、よろしくお願いします!」


私は慌てて手を握る。


「…弓、上手なんですね?」

「ん?ああ、まあ、命中100%だしね」


照れたように笑うリィル。


ー お前もかよ!なんかもう驚きもしないよ!むしろこっちがおかしいのかなって気分だよ!!


「へ、へえ〜、すごいんですね〜」


多分いま、私の表情はすっごい微妙なことだろう。


「あの…差し支え無ければライセンスカードを見せてもらっていいですか?」

「ん?はい、どうぞ」

「どうも…」


名前:リィル・S・アルティ

性別:男

年齢:18

職業:アーチャー Lv:100(+10)

HP:13(初期値)

火力:10(初期値)

防御力:10(初期値)

速さ:7(初期値)

魔力 : 0

回避:10%(初期値)

命中(会心):100%



「ほんとだ…でも、火力がないと命中しても意味ないんじゃあ…?」

「どの種族にも弱点がある。そこさえ撃ち抜けば一発さ」


そう言うとリィルは弓と矢筒を掲げて見せる。


「HPと防御が低いのも、アインがデコイ役になってくれるから問題ない。そもそもどれだけ離れていても当たるから、距離を取ればいいだけの話だし」


ーはい、チーター確定!


「そういや、フィオナは何にガン振りしてるんだ?」


唐突に話をかえたのは、チビアイテム漁りマスター。


ギクッ!!


「いや、その…それは…っていうかなんで私ガン振りしてる設定になってるんですか!?」

「回避につぎ込む以外に選択肢があるのか!?」


心底驚いたという表情のアイン。


ーあ、こいつダメだ。


「確かに気になるな!劣勢とはいえ、ミノタウロスに挑むぐらいだ。それなりに練度は上がってるんだろう?…やっぱり命中だよな?」

「リィルさんまで!?」


ーそうか、こいつも同類だった


「はあ?何言ってんだ?回避に決まってるよな!?」

「命中だよね!?」


2人に期待の表情で見つめられて。


「じつは…私こないだ卒業したばかりで…まだレベル3とかなんです…」

「「……」」


急に2人はくるりと回って背を向けると


「なっ!?笑わないでください!!後ろ向いても2人とも肩めっちゃ震えてますから!!」

「いや、まさか、そんなレベルでミノタウロスに挑むなんて…くくっ…」


と、リィル。


「違いますよリィルさん!たまたま遭遇しちゃっただけです!」


言い返す私に、


「ははっ!まさか勇気にステータスガン振りとは恐れ入ったね!」


と、アイン。


「だから振ろうにもそんな経験値無いんですってば〜!それにそもそもそんなステータスないし!」

「くくく…」

「ははは…」

「もう!いい加減笑い止んでくださいよ!」

「すまんすまん。…ほれ、お詫びだ」


アインが、さっきから手に持っていた何かをこっちに向かって放ったので、慌ててキャッチ。


「アインさん、これって…」

「ああ、ミノタウロスの角でできた剣だ。これがドロップするとはなかなか運がいい。Sレア装備だから、それがあればレベリングも捗るだろ」

「でも、そんな…助けてもらったのに…」

「まあ、アインも僕もSS装備で揃ってるしね」


そう言って再び装備を掲げるリィル。


「それで、もうひとつ提案ががあるんだがーー」


リィルさんとアインさんが意味ありげに目配せをし合うと、


「なんですか?」

「俺たちと一緒にパーティー組まないか?」

「ええっ!?」


リィルさんの方を見ると、「それがいい」と言うようにうなづいている。


「ミノタウロスに突っ込んでいくような勇気ガン振り野郎を放っておけないからな。」

「なっ!?もう忘れてくださいよ!!そりゃそうしてもらえればレベル上げ的にも助かりますけど…本当にいいんですか?」

「まあ、な。それにほら、ギルドでのパーティ認証は3人からだろ?」


2人を見ると、どちらもうなづいている。

私はしばらくの間考える。

でも結局、初めから心は決まっていたようで、


「じゃあ、お願いします!」


私の返事に、2人の顔が輝く。


「ようこそ!」

「よ〜し、新パーティー決定だ!!」

「「お〜!」」


アインに合わせて私とリィルが拳を突き上げる。


「んじゃ、ギルドに報告に行かないとな」


2人は手早くアイテムをカバンに入れると立ち上がる。

と、2人が同時にこっちを向いて。


「回避の魅力をしっかり教えてやるからな」

「命中の魅力をしっかり教えてあげるからね」

「へ?」


ー結局そっちが目的かよ!ほんと、救いようの無い回避バカと命中バカなんだから!…まあでも。


強い装備も手に入ったし、強い仲間も得ることができた。


ー2人ともなんだかんだでいい人っぽいしね。


結局、死にかけたのと、魅力を語られまくるのと足し合わせたら、トントンで平均になるようだ。


私は先を歩く2人に向かって叫ぶ。


「私は絶対平均で強くなって見せるから!」


やっぱり、平均って最高じゃない?





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