第5話
「すいませんでした…」
いつもの居酒屋にて。
私は子供よろしく唇を尖らせたまま答える。
「全くよそ見しやがって」
私の正面の席でお説教を垂れるのはアインだ。
「戦闘中は集中するなんて基本すぎて教科書に乗ってないぐらいだぞ!?」
「いやでもそれはアインが一人ぼっちにするからで…」
「ああ?」
「まあまあ、フィオナちゃんはまだ駆け出しなんだから、許してやってよ。」
助け舟を出してくれたのは、アインの隣に座るリィルだ。
「ま、それもそうか…」
「リィルさん…」
ーってよく考えたらオメーも同罪じゃねえか!
あの後、直撃を食らいながらも何とか耐えた私は、ポーションで回復させてもらったのだ。
(ちなみにゴブリンはリィルさんが仕留めた。)
「アインて結構剣術もできるんだね」
「…ライセンスカード見せたろ?本当によく見たか(2回目)?俺も一様職業は剣士だ。」
「へ〜」
「ちなみにリィルもなかなかの腕前だぞ?何てったってうちの学年の首席だったからな。」
隣を指差すアインに、リィルさんがこっちに向かって小さくお辞儀。
「じゃあ、リィルさん、剣術教えてください!」
「アホか」
「いたっ!むう〜別にいいじゃないですか!」
アインのチョップに頬を膨らましたまま私は机に頭を乗せると、ポケットをごそごそやって、自分のライセンスカードを取り出して眺める。
ーうん、見事に平均的…おーるまいてぃー、だな。
自分でうんうん、とうなづくと、
「何だ、全然レベル上がってないな」
横から覗き込んできたのはアイン。
「いいじゃないですか〜私の伸びは平均的なんですから〜」
「あっちょ、こら、見せろっ!」
「いやです〜」
ライセンスカードをめぐって争う私とアイン。と、
ひょいっ
私の手から、いつの間にか隣にやってきていたリィルがライセンスカードを取り上げた。
「ん、たしかに順調だね…はい」
ちょっと見て、私の手にライセンスカードを返すと、リィルは自分の席に戻る。
アインもそれに習った。
「でも、レベル14ってことはそろそろスキル解放かな?」
「ああ〜!たしかに!忘れてましたよ〜」
「おいおい…」
頭をかく私に、アインは呆れ顔でビールをすする。
「やっぱり、強くなろうと思ったらスキルと武器は大切になってくるからね」
そう話すリィルの横でアインがウンウンとうなづきながらビールをすする。
「でもどんなスキルになるんだろ〜楽しみだな〜…2人はどんなスキルなんですか?」
「ん〜」
適当な相づちとともにアインが真顔でビールをすする。
「アインさん!話聞いてます!?さっきからビールばっかり飲んでますけど!ひょっとしてビール飲むスキルですかっ!?」
「おうっ!?…んなわけあるか!!…そんなん今から騒いでもどうしようもないだろ」
気だるげに酒飲みスキルを発動するアイン。
「そんなこと言って、本当は恥ずかしいだけなんだよ、フィオナちゃん」
その隣で、おばちゃんよろしくリィルが片手を口に当てて片手でフィオナを招き寄せる。
「おいリィル何言ってー」
慌ててアインがリィルの口を塞ごうとするが、
「アインのスキルは、動物とお話できること、なんだ」
「おいっ!?」
私の脳内に浮かんだのは、のどかの日差しの差す原っぱで、もふもふたちに囲まれてきゃっきゃうふふするアインの姿。
ーか、かわいい…
「いや〜かわいいですねぇ〜、アインさん」
「ほんと、ほんと〜」
口元に手を当ててアインを見つめるおばさん2人組。
ニヤニヤ、ニマニマ…
「…ランダムなんだからしょおがぇじゃねぇか!」
「多少は本人の影響を受けるらしいですけど?」
にやにや、にまにま…
「子供の頃の夢だったんだよ!…ったくよぉ…」
観念したのか、アインは自分のライセンスカードを、机の上を滑らせてこっちによこす。
それを裏返すと、
<獣語翻訳>
指定した動物の言葉を理解できる。また、その言葉を話すこともできる。
「ほんとだ…」
「朝とか時々アインがいなくなることがあると思うけど、だいたい動物とお話ししてるから、影からやさしく(ニヤニヤしながら)見守ってあげてね」
ウィンクするリィルさんに、
「リィル!?」
悲痛の叫び声を上げるアイン。
「そういえば、リィルさんのスキルは何なんですか?」
「僕かい?…はいどうぞ。」
リィルはポケットからライセンスカードを取り出すと私にわたす。
<会心>
クリティカル(弱点命中)が出れば敵を消滅させる。そうでなければダメージは全て0になる。
「これはリィルさんにあったスキルですね!」
「…親父がギャンブル好きでね」
「なるほど…」
ーみんな、いろいろ大変なんですねぇ…
私はリィルさんのを返すと、代わりに私のライセンスカードを取りだす。
そこには未だ空欄のスキル欄。
ーここにどんなスキルが書かれるんだろう…楽しみ!
と、
「そういや、ミノタウロスのツノ製の剣…長いな…なんかいい名前ないか?」
「ミノ虫」
即答するリィルさん。
「いや却下で!」
ー急にすごいこというなこの人!?てか『虫』どっから出てきたの!?
「…取り敢えず、『タウロス』で…そこ!微妙な顔しない!」
私はアインを指差す。
「…まあ、そのタウロスだけど…つかい心地はどうだ?」
「え?結構いい感じです!」
私は、腰に刺している愛刀を撫でる。
攻撃力も、
「そうか、なら良かった。」
「…2人はどんな武器、使ってるんですか?」
「ん〜俺は黒龍倒した時のだな。火力上げてくれるのが嬉しいし。…というより、本命はこっちだな。」
アインは足元を指さす。
「それ、SS装備ですよね!?」
「そうそう。…ついでにいうと、剣の方もだけどな。こいつは『速さ』を大きく上げてくれるから助かってる。パーセントじゃなくて数値であげてくれるとこが嬉しいよな…これで芸術的な回避ができる!そもそも回避とはだな、本来…」
「…リィルさんは?」
長くなりそうだったので、リィルさんに話をふる。
「僕のはね…」
机の上に、自分の弓を乗せるリィルさん。
緻密な細工が美しい模様を描き出している。
「3連同時射撃ができて、リロード時間も少ないからほぼほぼ連射並みに打てる。」
ーそいつぁすげえや…
「ちなみにそれもSS装備だな」
横から口を挟むアイン。
「まあ、矢は鍛冶職人さんが作った(最上級の)やつだけどね。」
そう言うとリィルさんは矢と弓を片付ける。
「で、これが魔眼」
リィルさんが、かけていた片眼鏡をくいっと上げる。
「任意の倍率まで拡大することができるんだ。まあ、透視とかはできないけどね。」
「いいなぁ〜」
気づいたら心の声が漏れていた。
ーだって、やっぱりSS装備は装飾がかっこいい!
と、
「ふ〜ん?じゃあこいつはいらないな」
「ふえっ!?ああっ!!」
いつの間にか背後に回り込んでいたアインの手には、いつの間に抜き取ったのか、タウロスが握られていた。
「ちょ、ちょっと!返してくださいよ〜!」
「取ってみたら〜?」
「ぐぬぬ…えいっ!えいっ!」
アインが頭上に掲げた剣を取ろうとぴょんぴょんするが、手が届かない。
「何でっ!?ちびのくせに!」
「一緒だろうがっ!?…回避100%の俺から取れるかな〜?」
「ん〜!!」
なんてことをしていると、居酒屋の入り口の方が騒がしくなっていた。
「何だ?」
「何?」
私と同時にアインも動きを止めてそっちを見る。
「おい…砂漠地方の方に土龍が現れたらしいぞ…」
「おいおいまじかよ…」
「土龍ってSSランクモンスターだろ?」
「俺はパスだなー」
波紋は一気に広がり、あちこちからそんな声が聞こえてくる。
私たちも顔を見合わせると、
「行きませんよね?」
「行くか」
「行くしかないね」
ー即答!?なにこいつら!?私、自分はまともだと思ってたけど自身なくしそうだよ!?
「ほ、ほんとにいくんですか?」
「そりゃそうだろ!だってSSランクなんて年に4、5回だぞ?」
「そりゃそうですけど…」
ー私、死ぬんですが!?
「それにSS装備も手に入るしね」
「なっ!?」
リィルさんの言葉に私の心が揺れる。
「経験値もがっぽがっぽだな」
さらに畳み掛けるアインの言葉に、
べきっ!
ーあ、いま心の天秤が一気に傾きすぎて折れる音が聞こえた。
「しょ、しょうがないなぁ…いってあげる」
「…お前将来誘拐されないよう気をつけろよ?」
微妙な表情のアイン。
ーあれ?バレてる?…女優並みの演技だと思ったんだけどな…
「…まあいいや。じゃあ、明日は土竜討伐に行くから今夜は解散、しっかり体を休めて置くように!」
「は〜い!」
「りょうかい」
アインの言葉を締めにして、私たちは店を出た。
※土竜=龍族の一種です。もぐらじゃないです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます