鷲掴み。
とある夏のことでございます。
相変わらず、むーーーぅっと熱気と湿気が全身に絡みつく熱い夏。誰が悪い訳でもございませんが、近くに人がいるだけで立腹しそうになります、あの、不快な夏の日。
私は短い夏休みを実家で過ごし、当面のお米やお土産を沢山貰って特急電車に乗り込みました。ウトウトしつつ数時間が過ぎ、ハッと気付くと目的の都市に電車が停車しているではございませんか!
まぁ、なんて事かしらん。早く降りなくては!!
慌てて両の肩に荷物を担ぎ、両の手に紙袋を持ち閉まりかけのドアに荷物を挟まれつつ、なんとか下車することが出来たのでございました。特急電車の冷房で冷えきった身体が、ドアを出た途端に瞬間解凍され、不快指数MAXでございます。
あっっっつ!!
思わず心の声を漏らしつつ、慌てて降りたものですから、忘れ物があるかもしれませんし荷物の確認を…とベンチに荷物を置きました。
携帯…ございますね。
お米の袋…ございます。
お土産…1.2.3...ございます。
ペットボトル…は忘れましたね。仕方ございません。
よごさんす。
さて、次なる難所は改札までの長い階段…。
よっこら!
よっこら!
と掛け声をかけながら、再び荷物を両の肩に担ぎ、更に両手にも荷物を持ち、荷物持ちジャンケンに負けた小学生のように階段に向かって歩き始め、階段まであと15メートルほどと言う時に、真っ直ぐ私に向かい歩いてくる50代中頃と思われる眼鏡のでっぷりと脂肪を纏った暑苦しいおじ様がおりました。
なるべく最短距離で階段まで辿り着きたいと思うのは、大荷物を持つ者といたしましては至極真っ当な心理でございますので、そのまま歩みを進めたのでございました。一歩、二歩、三歩、、はて?ぶつからないよう多少の軌道修正を行いながら歩いているにもかかわらず、おじ様は私の行く手を阻むかのように距離を詰めてまいります。
何かがおかしい…
そう思い至る直後の事でございました。おじ様は不意に歩みを速めたかと思いきや、真っ直ぐ私に突進してくると、荷物だらけで両手が塞がっている私の両胸を
ガシッッッ!!!!!
……………………
神さま…今、私の身に何が起こったのでしょうか?????
この暑さの中、罰ゲームの様な荷物を抱えて一体何をどうすれば良いのでしょうか??
呆気にとられるとは当にこの事でございます。その暑苦しいオヤジは脂と湿気で曇った眼鏡の奥で死んだような目を泳がせながら、暑苦しい両手で私の両胸を鷲掴みにしてるではありませんか!!!!
叫べ!!(あまりの事に脳の処理能力が追いつかず、声を出したまえ!と自ら命令しないと出ないのです)と息を吸い込んだ刹那…
何事もなかったように涼しい顔で(いえ、大変暑苦しい顔でございましたが)足早に、ただ、私とすれ違っただけ!風に、立ち去ってしまったのでございます。
荷物を抱えて、不快指数MAXの夏の午後、自身の身に起こった事を反芻し、身体の芯から湧き上がる怒りに反し、その場から動けずにただ立ち尽くすことしか出来ないのでございました…。
その日、大荷物と納まらぬ怒りを抱え、自宅に向かいながら、なぜ故私はトランプの女王ではないのかと思っておりました…。
私は強く訴えたいのでございます。紳士たるもの婦女子の荷物は持って差し上げなさいませ。男児をお育て中の親御さんには、その様な紳士の振る舞いができる男子に教育していただきたいのでございます。お母様方、視点を変えてご子息を観察なさってくださいませ。貴女様のご子息は付き合いたい紳士にお育ちでございますか??
まかり間違っても、このような無礼千晩、迷惑千万な生き物になりませぬよう。
そして、もう一つ
欲張ってあれもこれも持って帰るお嬢さんにも十分お気をつけてくださいませ!!!
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